三国志 青春の乱

4/5
8人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
 大輔の誘いも彰の誘いも断り、俺は毎日三国志を読みふける。だが俺はある場面で手が止まる。三国志に栞を挟み、表紙をまじまじと見る。ため息が何度も出る。再び開こうと思ったが動けずにいた。蝉の声が俺の耳にじんじんと響く。机に置いたオレンジジュースの中の氷はすべて溶けた。外を見ると太陽がさんさんと照りつけて現実は間違いなく夏だ。  俺は良太に電話をかけることにした。誰かと分かち合わなければ先を読めない。分かち合う役目は良太に決まっている。良太の大好きな三国志の話だ。良太の声が受話器から聞こえたとき、俺は口早に喚いた。 「関羽が死んだ!関羽が死んだんだ!!」  良太は俺の喚きをしばらく聞いて嬉しそうに言う。 「そんな悲しんでくれるなんて、そんなに三国志を好きになってくれて嬉しいよ」  ああ。そうか。物語を好きになるってこういうことなんだ。 「俺は劉備と関羽と張飛が生き残ると思ってたんだよ……。俺が知ってる漫画のストーリーと全然違う」 「そりゃあね。三国志は歴史にあったことを物語にしてるんだから。読んで損じゃなかったろ?」 「うん。すげー面白い!良太は児童文学じゃない三国志も持ってるの?今読んでるの終わったら貸してくんない?」 「もちろん!」  今まで良太と遊ぶことは少なかった。教室の隅で本ばかり読んで暗いやつだと思ってた。そんなの間違いだ。良太の頭の中にはエキサイティングな物語が渦巻いている。良太の真の姿は最高のやつだった。  図書館に返す期日が迫る中、俺は三国志を読みすすめる。張飛も死に、曹操も死に、劉備も死ぬ。物語から消えないだろうと思っていた英雄の夢は次々と散っていく。そして劉備がいなくなったあとの主人公諸葛亮も秋風の中消えた。真夏だというのに俺がいる世界は秋のように感じた。蜀が滅んだのを目にして俺が手にしていた物語は終わりを迎える。  パタンと三国志を机に置いてから、すぐに原稿用紙を取り出す。読み終えたこの感動をすぐに残したい。読書感想文なんて嫌いだった。だが書きたい。俺がこの夏に出会った物語の感動。それを真っ先に良太に読ませてやる。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!