5人が本棚に入れています
本棚に追加
交番前でうろうろする警察官の姿が脳裏に浮かんだ。監視カメラに袋を置いた子供が写っていたとしても、周の黄色い帽子はぶかぶかで顔まではっきりしないだろう。
よくある黒いランドセルに、どこにでもいる小学生。弟が自分だと名乗り出ないかぎり、届け人は特定されない。
そして帰路で学校での出来事をほぼ忘れてしまうような子に、ろくすっぽ中身を見なかった袋の記憶が残るとも思えない。
(落とし物に、燃えないゴミ、か)
周がそういうのなら、それでもいい。
だって穴を掘ったのは周なのだから。
(でも、それじゃ綾姉のあの顔は?)
そこだけが腑に落ちない。なにをどう誰に切り出したらいいのか、見当もつかない。ああ早く大人になりたい、もっと色々知って、強く大きくなりたい。そうしたら大切な姉や弟を自分の手で守れるのに―ー。
***
それから姉は酷く痩せたが、両親は受験のせいだろうと遠巻きに綾を見るばかりだった。
ところが翌春になって姉は恋人と桜の散るように別れた。それでようやく佐奈は胸をなで下ろしたのだった。
綾姉、もしかしたらずっとあの人と上手くいってなくて、だからあの時思いつめた顔をしていたんだ。よかった。だってうちの庭に死体なんか埋まってるはずないもの。
子供の時間は大人より速く流れる。威勢の良いゼラニウムが満開になる頃には、すべてが忘却の彼方で――。
真実が明らかになったのは、それから四年後の晩秋だった。
最初のコメントを投稿しよう!