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「佐奈。ゴミ袋」
慌てて開いた袋に燃えるような色の葉の山を流しこむと、綾姉は箒とちりとりを縁側においた。
「さっきの話だけど。なにか行き詰まったときは、遠慮せずに姉さんに相談しなさいよう」
「ねえ、そう言えばさ。綾姉は昔つきあってた人と、どうして別れたの?」
すると綾姉はまばたきし、つかのま困ったように唇をすぼめた。
「……堕ろせって言われたから、かな」
まさかそんな答えが返ってくるとは思わなかったので、佐奈はぽかんと口を開けた。すると姉は慌てたように、
「あ、誤解しないでね。本当に赤ちゃんができたわけじゃなかったんだけど」
両手を振りながら空を見上げる。
「私、本気で好きだったのよ。でも子供だった。なんにもわかっちゃいなかったの。だから言われるまま流されてしまって……もしかしたら、って時があったの」
突然、姉が知らない人になったようで、佐奈はぼんやりと首をかしげる。なんだろう、以前この顔を見た気がする。
「その時ね、思ったの。私は今、人を一人殺そうとしてるんだって。だってどんなに小さくても、お腹にいたって、命は命でしょう」
姉の頬が歪んだ。握りしめた手の甲が白くなる。
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