庭舟

17/17
前へ
/17ページ
次へ
あの頃は他人(ひと)を思いやる余裕なんかなかった。自分を支えるのに精一杯で、早く大きくなりたいと前ばかり見ていた。 (今は……優しくなりたい) 母が植えかえたのか、四季咲きの白バラの前には紫の葉ボタン、その横でガーデンシクラメンが赤くなってうつむいている。 庭は止まることのない季節を循環している。波間に漂う舟のように。 そして私たち家族は、その同じ舟に乗る旅人なのだ。この先もずっと。 佐奈は微笑(ほほえ)んだ。 どこかほっとする湿気(しけ)った土の匂い。透き通った秋風が身に染みる。蒼天に(とび)が一羽、黒い点となって横切っていった。          了 084c6fc0-4fc4-4c18-a100-433b48e97c72
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加