庭舟

6/17
前へ
/17ページ
次へ
              *** その晩はふとんに入っても、身体に熱がこもって寝られなかった。 どうしてうちの庭に、ダイヤモンドと銃弾が。 背中が熱い。佐奈は暗闇を見据()えながら寝返りを打つ。 脳裏に闇の組織を束ねる首領の姿が浮かんだ。きっとあれを埋めた犯人は恐ろしく強欲な悪者にちがいない。数々の犯罪歴があって、人を殺すことなんかなんとも思っていない――そんな男。 「や……やめようっ」 思わず、布団をかぶって叫んでいた。 そういえば周は、あの穴を埋め戻したっけ? 佐奈は身震いする。 まずい、シャベルもまだ庭に転がったままだ。物置の横に片付けたのは袋と缶だけ。いちおう両方ともビニール袋に入れたけど。 ああ、あの穴。 今が夜じゃなかったら、すぐにでも埋めて、なかったことにしてしまいたい。そうすれば闇の犯罪者も、あれを掘り出してしまったことには気づかないはず。 せめてダイヤだけだったらな、と佐奈は思う。どれくらい高額になるかわからないけれど、宝石を売ったお金で家のローンとやらを返せるのに。布団の中で息を吐く。 ――母さん働きに出るけど、わかってね、佐奈。綾もこの冬には受験だし、塾代やなんやかやと、大変なのよ。 (私はいいけど、周はまだ……) 弟は幼い。家に帰ってきたときに迎えてくれる存在が必要なんだ。一心不乱に穴を掘る弟の丸まった背中を見ていれば、嫌でも気がつく。 お金ってそんなに大事なのかな、と佐奈は思う。綾姉(あやねえ)に毎晩、夕飯の支度をさせ、自分に弟の世話をまかせなければならないほど。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加