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学校の先生も、親も。大人達は毎日なにか必死で、時間に追われていて、余裕がない。その視線は佐奈たちの頭上をちらちら通り越していくだけだ。ちゃんと同じ高さまで下がってきて、視線が合う機会はめったにない。
もし家のローンとやらが完済されて、生活にゆとりが生まれたら、母はまた家にいてくれるのだろうか。佐奈が幼かった頃のように。
明日、庭でダイヤを発見したと言ったら母はどうするだろう。
(警察は……下手に行っちゃったら、かえって疑われるかも)
佐奈は小さくかぶりを振った。だめだ一体、誰に相談したらいいんだろう。
父は平日家におらず、週末は茶の間の主と化している。話しかけてもうるさがられるだけだし、むこうからなにか言ってくる時は小言ばかり。
会社では身を粉にして働いてくれているのだろうが、家にいるときは家族で一番ぐうたらしているから、最近では近寄りたくなかった。
(綾姉に相談するしかないかな)
本当はなんだか最近、ちょっと妙だから……話しづらいんだけど。
佐奈は蒸した布団から、ふ、と顔だけ出すとため息をついた。
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