この空が消えても

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 セルシールは目が見えなくなった。打ち所が悪かったと先生から言われていたが、どこをどう打てば目が見えなくなるのかシーブスにはわからず、その現実を受け入れることは難しかった。  セルシールはずっと家に引き込もっている。一度、リーブスはセルシールの部屋まで入ったが彼は目が見えないせいで、すべてにおびえているようだった。  密閉した空間にいないと落ち着かない。そう言って、ドアを閉めるように声を荒げた。  しかし、リーブスの声を聴くと少し落ち着いたようだった。 「本当に何も見えないのか?」 「見えない。すべてが真っ暗なんだ、ここが本当に自分の部屋なのかも判断ができない」 「大丈夫だ。ここはお前の部屋だ」 「そうか、なら。電気をつけてくれないか?」 「もう、ついている」 「……そうか。すまない」  簡単な話をして、リーブスはセルシールの家から出た。変わりないようだったが、どこか別人と話している感じもした。  帰ってすぐに、リーブスは両親から新たな魔王の登場の知らせを受けた。終末魔法は、六時間。一つ前が一時間だから今度のはまた遅くなっている、寝て起きたら終わっているくらいだろう。  しかし、その夜。リーブスは寝付けることができなかった。気が付けば、世界終末まで三十分程度の時間までたっていた。  居てもたってもいられず、リーブスはいつもの丘の上へと向かった。  木の上にセルシールはいない。彼がいつも座ってた枝は折れている。リーブスはいつも通り、木の根元に座り込み夜空を見上げた。 「この夜空も、消えてしまうのだろうか」  ポツリと、セルシールが吐いた言葉をなぞった。世界が終わったらどうなるかという話に対して、セルシールはそう呟いた。 「君の世界は終わってしまったのだろうか」  ――君の世界だけ先に終わってしまったというのだろうか。  もう一度、木の上を見上げる。ふいにリーブスはセルシールが見ていた景色を見たくなったが、既に幹は折れており、あの特等席には座れなくなっている。  残り、十数分程度だろう。  今回もユーリオ率いる勇者軍が討伐に向かっている。この辺境の街には、魔王の登場は素早く伝わるが討伐に関してはかなり遅くやってくる。『世界が終わらなかった』それが、いちばん速く届く情報であり、そのため後の討伐報告は極めて緩やかにやってくるのだ。  ユーリオ軍なら、既に数時間も前に討伐をしていてもおかしくない。皆そう思っている。だから、皆世界が終わるかもしれないのに眠ることができる。  勇者という存在がいかに多くのモノを背負っているか。  リーブスがそんな風に物思いに老けている間にそろそろ、終末の時間となっていた。やっぱり、今日も世界は終わらなかった。そう、ため息を吐いて帰ろうとしたリーブスの前に、セルシールが立っていた。 「セルシール! 大丈夫なのか? 一人で来たのか?」
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