この空が消えても

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「? 何を言っているんだリーブス? 一人でこれたのかだって? 君は私を赤子かなんかだと思っているのか?」 「いや、だって君は今、目が見えない……」 「あぁ、そうか。……少し話そうか」  そう言うとセルシールは軽い足取りで木に近づくと、身軽に木に登りいつもの特等席に座った。そう、枝が折れていなかった。 「どういうことだ?」 「リーブス。君はただ、夢を見ているだけなのだよ。君の中の私はまだ目が見えている。この木に座るセルシールだというわけだよ」  リーブスは納得はできなかったが、今起こっていることに身を任せておきたいという思いも強かった。なぜなら、終わったはずの親友が目の前にいるのだから。 「あと五分だ」  あの日、聞いた言葉をセルシールは再び口にした。 「あと五分で私たちの世界は終わるんだ」  しかし、セルシールは言い切った。でその言葉を聞いてリーブスは『あぁ、終わってしまうんだな』とすんなり受け入れた。  すでに、リーブスは世界の終わりを目の前で見てしまっていた。世界はいつか終わる。それを見たせいで、リーブスは眠れなかった。終わるということを身近に思い、受け入れてしまう。 「ユーリオは討伐をしくじったのか?」 「さぁ、遠くの勇者のことなんて私にはわからない。でも、リーブス。五分後に世界が終ってしまうことはたしかなのだよ」  まるで喜劇を語るようにセルシールは足を揺らしてにこやかに語った。 「この夜空も見納めとなるだろう。君ももっとしっかり見るべきだ」 「いいや、もう見飽きるぐらい見た」  リーブスは、再び根元に戻り腰を下ろした。 「真の意味で終わりとは、なんだろうか」  頭上でセルシールが言葉を放った。  リーブスは困惑した。これが自分の夢だというなら、自分自身の疑問に他ならない。セルシールが言いそうな言葉で、自身に問いているということなのだ。 「命を失うことではないのか?」 「でも、リーブス。君は、視界を失った私に対してセルシールの世界は終わってしまった。なんて思っていただろう? しかし私は生きている」 「そうだな」 「光を失うことが終わりか?」 「それは、違う気が。するな」  頭上のセルシールがリーブスを見下ろす。 「あと五分後、君は真の終わりを体験する。君は、その身に何が起こると考える?」 「長い五分だ」 「これは夢だからな」  しかし、夢だというのにセルシールの一言で、リーブスの中に恐怖の感情が沸き上がっていった。  それは、終わることへの恐怖というより、何かわからないものが迫ってきている恐怖であった。とどのつまり、リーブスには分らないのだ。『真の終わり』とは何かを。  そんな恐怖心が世界を真っ暗に染めてしまった。  いつの間にか、リーブスの周囲は黒一色となり、何も見えない状態となっていた。一寸先どころか自分の掌すら見えない世界。そして、木の上の方から声が聞こえる。 「これが、セルシールの終わりの世界」  その声を聞きリーブスは少しだけ安堵した。 「セルシールはまだ、終わったわけではないのだろうか。このような状態になっても、やっぱり俺にはわからない」 「君には目が覚めるという希望がある。しかし、セルシールにはそれがない。彼にとって暗闇は現実だ」  この暗黒がずっと続くのをリーブスは想像してみる。しかし、やはり心のどこかで目が覚めるだろうという楽観があり、深い絶望を抱くことは無かった。 「なぁ、リーブス。星空がきれいだぞ」  暗闇の向こうでセルシールの声が聞こえた。 「あと、五分だ」
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