事件

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事件

「彼と初めて会ったのは、4月の中頃です。初めての学食に少し興奮した感じで「安いっすね!」「旨いっすね!」て、子供みたいに話しかけてきて。少し話して私が先輩だって気付くと、急に丁寧な口調になって。そういう素直な所も可愛いなって……  それから、度々学食で会うようになりました。学部も学年も違う私達の接点は、本当にありません。  そんな私達が付き合ってるなんて、誰も知らなくて当然です」 「私、彼のことは何でも知ってます。彼のお家にも、何度もお邪魔しました。彼、意外にだらしなくて、いつも片付けてあげてました」 「彼が居酒屋でバイトを始めたので、早速見に行きました。彼の仕事の邪魔しないように、少し変装して。彼、全然気付かなかったんですよ。  彼、本当に真面目で一生懸命なんです。なのに、バイト先の店長が酷い人で、ちょっとのミスやちょっと長話したくらいで、すぐ怒るんです。ブラックバイトですよね? だから、天罰が当たったんです。  あの店長、お亡くなりになられたんですか? ご愁傷様です。失くなるのはお店だけで良かったのに。これも因果応報ってやつかしら」 「新しいバイトが見付からなくて、彼、大変そうでした。仕送りとかあまりもらえないんでしょうね。  私はずっと家庭教師のバイトをしていますが、彼には勧められません。だって、生徒さんに好きになられたら、困るでしょう? だからね、こっそり援助してあげました。そんなに沢山はあげられないんですけど、時々こっそりとお財布にね」 「突然、私達の邪魔をするあの女が現れました。  昔付き合ってたからって、未だに付きまとうなんて、許せませんよね? 頭悪くて進学出来なかったくせに、図々しいと思いません?  それであの日、あの女が彼の家に来るって聞いて。何しに来るのか知りませんけど、他の女が彼の家に入るなんて、許せないでしょう?  だからね、罰を与えてやったんです」  被害者は、東香里19歳。  路上で南部陽子20歳に刃物で刺され、間もなく死亡。  容疑者と面識はなし。  唯一の接点と思われるのが、被害者の元同級生、北村英二18歳。 「なんべようこ、さん? さあ、知りません。  学食で? うーん。そういう事があったのかも……僕、1人で飯食えないんで、同じように1人で飯食っている人見かけると、声かけてたから。その内の1人かも。  その人と、毎日学食で? まあ、ほぼ毎日学食で昼飯食ってたんで、会ってたのかな?」 「部屋から盗聴器が見付かった時は、本当にびっくりしました! 全然気付かなかったです! 部屋に何度も入られてた? 全然気付きませんでした。失くなった物とかなかったし……」 「バイト先の火事? それもその人の仕業だったんですか!?  短い間でしたけど、店長にはすごく良くしてもらって、すごく良い人だったのに……僕のせいで……」  自分のせいで2人も人が亡くなったと、彼は泣き崩れてしまい、それ以上の聴取は出来なかった。
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