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青藍色の浴衣には赤い椿の花が咲いていた。
袖を通した絞りの生地は、凹凸がザラリと心地よく、夏の素肌も心も、心なしか軽くなる気がする。
「はい、これでよし!」
姿鏡に映る私の後ろから、柊のおばさんがにこりと顔を出す。
程よく締め付けられた帯は背筋に芯が入ったように歩きやすい。帯は赤い椿を引き立てる真っ白な麻模様だけのシンプルなデザインだった。
玄関に向かうと、私が持ってきた下駄とは別に、浴衣とお揃いの椿の絵柄が施された鼻緒の上品な下駄が用意されていた。
「あの、おばさん……これ」
「いいのいいの、それは椿ちゃんのために買ってきたんだから、しっかり楽しんでおいで!」
背中をトンと押されて、勢いのままに玄関の扉に手を触れる。
扉の向こうでは、下駄の音がした。
私の大好きな、彼の音。
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