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「なんでっ、こんなことしたって!」
「椿が病気だろうが、そうでなかろうが俺には関係ないんだって。俺は好きな人としか結婚しないって決めてるから。それに、この先椿より好きになれる人なんて、絶対現れないからさ……だから、この指、俺が来年18になるまで予約な」
愛おしそうに私の手を撫でながら微笑む柊の顔は、太陽よりも花火よりも、ずっと暖かくて綺麗だった。
「返事はもちろん、イエスだろ?」
くしゃりと笑って、私の頬に流れる涙を柊の指が優しく拭う。
「ふふ……どうしよっかな」
薬指の上で光る、縁日用のおもちゃのリングが、滲んだ視界の中で花火色に煌く。
私の瞳からは、溜め込んでいた感情がとめどなく溢れ続ける。
だけど零れ落ちるのは、悲しみなんかじゃない。
胸が締め付けられるのは、悔しさなんかじゃない。
「柊、私っ」
意を決した私の顔を見つめていた柊が、言葉を遮るように、右手をすっと挙げた。
「健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、」
柊の口からゆっくりと紡がれる言葉に、生きたいと、強く思った。
たとえ惨めでも、潔く無い最期だとしても。
この残り僅かな命にしがみつきたい。
目の前で空を鮮やかに染める、この花火のように、何度でも這い上がって柊を笑顔にしたい。
「富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、吉高柊の隣にいることを誓いますか?」
したり顔で笑う柊の頬に、めいっぱい手を伸ばす。
腰を浮かせ、顔を引き寄せ、噛みつくようにキスをした。
触れた弾みで、地面に置いていたラムネの瓶が転がる。
カラン、コロン。
鳴り響くビー玉の音は、
「誓いますっ!」
私たちの、幸せの鐘の音だ。
fin
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