45人が本棚に入れています
本棚に追加
「飲み物買ってくるし、何かリクエストある?」
もうすぐ花火が始まってしまう時刻だというのに、柊が思い立ったように立ち上がった。
「え、でも花火始まっちゃうよ?」
「大丈夫だって。俺ハンドボール部だし、足速いから」
「ハンドボール部は関係ないでしょ!」
けらけら笑う私の頭を、柊の手が優しく撫でてくる。
「夏っぽくて、愛がたっぷり詰まったやつ買ってくるわ。待ってて」
「なにそれ!」
戯けて笑いながら、屋台に向かって歩いていく柊の後ろ姿を目で追った。胸がじんと熱くなる。
中学の時からちっとも変わらない優しさなのに、いつからこんなに大人っぽくなってしまったのだろうか。
これから先、私が隣で見ることの出来る柊の姿なんて、恐らく彼の人生の三分の一にも満たない。
私がいなくなった世界で、柊は新しい恋をするだろうし、柊を想う女の子だって沢山現れるのだろう。
それが堪らなく悔しい。
誰にも柊を渡したくない。
私以外の誰かを、好きになって欲しくない。
そんな浅ましい感情に、自分の心が日に日に蝕まれていくのが分かる。
なんて醜いんだろう。
いつまで彼を独り占めにする気だろうか。
柊の最初の彼女が私で、私の最後の彼氏が柊。
その事実が永遠に。彼の記憶の奥底に、痣のように残り続けてしまえばいい。
そうすれば、やがて私の存在が消えてしまっても、忘れ去られることは無いだろう、と。
自分の中の命の燈が、刻々と小さくなるのを感じるにつれて、そんなことを考えてしまう自分が嫌で仕方なかった。
最初のコメントを投稿しよう!