カラン、コロン。

8/9
前へ
/9ページ
次へ
「俺さ、この先、椿の体が動かなくなっても、人工呼吸器に繋がれて話せなくなっても、それでも……ずっとお前の傍で喋ってやるからな」 「なに……っ、」 涙が、押し出されるように零れ落ちる。 「花火の音だって、好きな音楽だって、聴かせてやるからな」 「も、いいからっ……」 このひと夏の思い出さえあれば。 決して忘れたりしないって約束してくれるなら。 私は椿の花のように、潔く──── 「よくない。俺は……全然、よくない。もっと椿と一緒にいたい。一分でも一秒でも長く、椿と一緒に生きたいって思ってる。だからさ、俺の我儘かもしれないけど、最期まで諦めて欲しくないんだ」 私の左手を優しく持ち上げながら、柊が泣きそうな顔で笑った。 キザで、いつも調子良くて、優しくて。 私の最初で最期の彼氏。 それだけで幸せ。 それだけで十分──……だったのに。 「椿の目が見えなくなっても、毎日色んな話して笑わせてやるから。俺がいるってわかるように、毎日下駄だって履いて会いに行くし」 「ばか……」 「俺の下駄姿好きなんだろ? あとさ……椿が嫌じゃないなら、同じ墓に入りたい」 「え?」 左手の薬指に、するすると滑る硬い感触は、今にも壊れてしまいそうなほど軽くて、頼りなくて。 まるで。 私たちの永遠の誓いのために用意されたような、子どもっぽいリング(おもちゃ)だった。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

45人が本棚に入れています
本棚に追加