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「俺さ、この先、椿の体が動かなくなっても、人工呼吸器に繋がれて話せなくなっても、それでも……ずっとお前の傍で喋ってやるからな」
「なに……っ、」
涙が、押し出されるように零れ落ちる。
「花火の音だって、好きな音楽だって、聴かせてやるからな」
「も、いいからっ……」
このひと夏の思い出さえあれば。
決して忘れたりしないって約束してくれるなら。
私は椿の花のように、潔く────
「よくない。俺は……全然、よくない。もっと椿と一緒にいたい。一分でも一秒でも長く、椿と一緒に生きたいって思ってる。だからさ、俺の我儘かもしれないけど、最期まで諦めて欲しくないんだ」
私の左手を優しく持ち上げながら、柊が泣きそうな顔で笑った。
キザで、いつも調子良くて、優しくて。
私の最初で最期の彼氏。
それだけで幸せ。
それだけで十分──……だったのに。
「椿の目が見えなくなっても、毎日色んな話して笑わせてやるから。俺がいるってわかるように、毎日下駄だって履いて会いに行くし」
「ばか……」
「俺の下駄姿好きなんだろ? あとさ……椿が嫌じゃないなら、同じ墓に入りたい」
「え?」
左手の薬指に、するすると滑る硬い感触は、今にも壊れてしまいそうなほど軽くて、頼りなくて。
まるで。
私たちの永遠の誓いのために用意されたような、子どもっぽいリングだった。
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