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 アパートの三階まで、早足で階段を駆け上がる。勢いよく扉を開けた瞬間、いつもの臭いが鼻についた。  リビングに踏み入った時、第一に目に付いたのはソファーで寛ぐ姿でなく、その手元だった。 「そんなに吸うなって言ったじゃん!」  持っていた車の鍵を、投げるよう机上に置く。消費中の煙草を奪い、灰皿へ押し付けた。灰皿には、既に押し合うよう詰められた吸い殻がある。 「これだけが生きる楽しみなんだって。許してくれよ、蒼月(あづき)」  奪い返されかけ、次は灰皿ごと後ろに隠す。 「もっと別の楽しみ見つけてとも言った。あれ、結構本気で言ってるんだけど」 「そう言われても、他に興味も湧かないし」  彼、明嵩はヘビースモーカーだ。具対数は定かでないが、一日に数箱分、消費しているのは知っている。  大学で知り合った当初は、もう少し控えめだったのに。 「もう、何度言わせるんだよ。煙草一本で」 「"五分三十秒寿命が縮まる"だろ。でも、そのくらい構わない。そもそも生きてることに価値を見いだせない」 「そういうこと言わないでとも言った!」  半ば本気で怒っていたが、明嵩は反省の様子を見せなかった。そもそも、叱られていると自覚しているかさえ怪しい。  もし何かあった時、悲しい思いをするのは周りの人間なのに。
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