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 俺は、父を肺病で失っている。シングルファザーゆえ母はおらず、父は唯一の肉親だった。尊敬していたし、何より誰より大好きな人だった。  そんな父もまたヘビースモーカーで、何をするにも喫煙しながらだった記憶がある。  しかし、それが普通だった為、俺は咎めることすらしなかった。結果、父は肺を壊した。それからは早かった。  末期の苦しげな様子は、今でさえ胸を抉る。もう何年も経つが、悲しみだって癒えていなかった。  そんな過去があるからこそ、俺は煙草には人一倍敏感だった。    明嵩とはルームメイトのようなものだ。万年金欠を理由に、友人である彼の住処に転がり込んでいる――と言うのは建前で、実は恋人として同棲中だ。  しかし、このご時世、堂々と公言するのも憚られると周囲には秘密にしていた。  いや、俺自身はその必要性を感じていないが。今の明嵩が分からないから――。  明嵩は今、精神病を抱えている。就職先がブラック企業だった為に、心を潰してしまったのだ。  今は退職しており、ほぼ一日中家にいる。  結果、必然的に喫煙量も多くなったのだろう。煙草も通販で買っており、通院以外の外出はめっきり見ていない。    まだ暗い明け方、目を覚ます。本日は公休日ゆえ、二度寝に踏み切ろうとして留まった。自室の中、煙草臭が立ち込めていたからだ。  俺たちは、各々自室を持っている。  俺の部屋は、消臭グッズが充実しており基本は無臭だ。その上で臭うと言うことは、現時点で煙が侵入していることを示す。 「やっぱり。吸いすぎでしょ……」  リビングに入ると、昨日と同じ状態の明嵩がいた。山盛りになった灰皿の横、小盛りになった二台目が並んでいる。 「また寝てないの?」 「うん、でもご飯はちゃんと食べたよ。作ってあるし」  思わぬ報告にキッチンを見遣った。心配から一変、口元が綻ぶ。腰を上げながら喜びを伝えると、明嵩は小さく笑んだ。
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