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撮影の空き時間にSNS動画の第五弾を撮る。
今回はファンの子たちも後ろに並び、みんなに囲まれての撮影だ。ちょっと新鮮で楽しい。
今回のお題は、お互いの好きなところ。
「蓮の好きなところはね、ワンコなところかな」
「え、ワンコ?」
「そう。ワンコみたいに、めっちゃ可愛いところ。時々しっぽが見える」
「しっぽついてないよっ」
「ははっ」
「秋さんの好きなところは……優しくてあったかいところかな」
「俺あったかいの?」
「うん。あったかい。一緒にいると、なんか胸がほわぁってあったかくなる」
「そういうとこな」
「ん?」
「言うことが、もう可愛い」
「かわ…………」
「はいっ。蓮が可愛いのがすごく伝わったところで恒例の『今日食べたい夕飯』でーすっ。俺はね、あっさりしたものがいいなぁ。あ、蕎麦が食べたい。天ぷら蕎麦!」
「秋さんそれ、あっさりしてないよ」
「あれ?」
「じゃあ俺は、ハンバーグが食べたい」
「本当に蓮は期待裏切らないな」
ぶはっと秋さんが吹き出して、スタッフも笑っていた。わけがわからない。
「え、何?」
「みんなも、そろそろ分かってきたと思うけど、蓮はこういうやつですっ」
スタッフが爆笑した。
「え? 何なに?」
「お前の食べたい夕飯、全部小学生の好きな夕飯ランキングな」
「……え、そうだった? 前回なんだっけ? あ、カレーだ」
「あと唐揚げと、ラーメン」
「オムライス……」
「ははっ。な、めっちゃ可愛いだろ?」
と、秋さんは声を上げて笑った。
「もう分かったから、可愛いとか言わないでっ」
可愛い可愛いと何度も言われ、恥ずかしくて顔がほてる。もう早く終わってほしい。
「ではっ。蓮の可愛さが存分に伝わったところで、放送前スペシャル第五弾、ありがとうございました!」
「あ、りがとう、ございました!」
やっと終わった。とホッとしたとき、秋さんが突然手をつないできた。
「……えっ」
「ちょっと今から蓮と手つなぎデートしてきまーす」
「えっ! ちょっ」
「行ってきまーす」
つないだ手をカメラに向けて、にーっと秋さんが笑う。
「蓮、行こうぜ。あっちの商店街」
「え、でも、撮影は?」
「許可もらったもーん」
「もーん、って……」
楽しそうな秋さんが俺の手を引っ張って、すぐ横にある商店街に向かう。
え、本当に手つなぎデート?
ギャラリーもそのまま追いかけてきた。迷惑にならないのかなと心配になったが、撮影許可を事前に取っているという。
「え、じゃあこれって予定通りってこと? 俺だけ知らなかったの?」
「蓮に教えないほうが絶対面白い動画撮れるじゃん」
「ええっ! ひどいよ秋さん……」
「いやいやいや、スタッフ全員共犯だからな?」
俺たちを囲っているスタッフとファンの子たちみんなが、楽しそうに声を上げて笑った。
秋さんとの商店街が思いのほか楽しすぎて、はしゃいでしまった。
手はずっとつないだままだった。こそばゆかった。
その動画も短いけれどSNSに投稿された。
翌日、SNSのコメント欄を見た秋さんが、面白がって俺にも見せてくる。
「あきれん、何度見ても攻めと受けが逆っぽい。ドラマどうなるの? だって」
笑いながら次々と読み上げる。
「秋人は男前だし、蓮は可愛すぎる。もうこの二人完全にカップルだよね? だって。俺たちカップルだって。完全にって付いてるし」
「……秋さんのせいでイメージガタガタだよ。どうしてくれるの」
「いやいや、蓮が可愛すぎるのが原因だろ?」
「秋さんがそう仕向けてるからじゃんっ」
「えっ。蓮が『じゃん』とかめずらしい。可愛い」
「今のはどこもこれっぽっちも可愛くないよっ」
「ははっ」
俺がどんなに怒っても、秋さんはちっとも反省してくれない。撮影が再開されるまで、俺はずっとSNSを見せられた。
秋さんは、すごく楽しそうにずっとスマホを見てる。
ファンの子たちの反響が本当に嬉しそうで、そんな秋さんを見てるのが俺も嬉しくて、なぜか胸があたたかくなった。
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