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トレンド独占✦side秋人
早朝にもかかわらず、俺は蓮に電話をかけた。
昨夜の、ドラマ第一話放送後の反響がすごい。
記事を見てしまったら、数分もたえられなかった。今すぐ蓮と話したい。
『…………もし……もし』
「見た?!」
あきらかに寝起きの蓮に、挨拶もなしに聞いた。電話のむこうでは、まだ覚醒していない蓮がモゴモゴ言っている。
「蓮、起きろってっ。ネットニュースすげぇんだって!」
『あ……秋さんだ……』
「そうだよ秋さんだよ、起きた?!」
『うん、起きた……おはよう』
「見て! 記事お前に送ったから見てっ」
『…………うん、待……ってね』
通話は切らずにスマホを操作しているので、ガサゴソ音がする。
『ん……と。関連ワード……トレンド独占?』
「すげぇだろ? 上位三位独占だって」
『んん? いや、これおかしいよ……俺が三位なわけない』
「ドラマが一位で、あきれん二位、神宮寺蓮が三位。現実だからっ」
『秋さんがいない。おかしい』
「俺は五位にいた。そんなことはいいんだって。ドラマの反響すげぇよっ。蓮のギャップにやられたって声であふれてる」
『秋さんは? 秋さんの……』
「俺のは、イメージ変わったとか、ふわふわ秋人もいいとか」
『……うん、そっか。そっかぁ。良かったぁ。……秋さん今日何時入り?』
「俺はもう出るよ。蓮は遅いんだよな?」
『うん……午後から』
「まだ寝れたのに悪かったな。嬉しくてさ。一番に、蓮と話したかったから」
『うん。秋さん、ありがとう。嬉しい』
「うん。じゃあまたあとでな」
『うん……おやすみ』
「ははっ、寝るのかよっ。おやすみ蓮」
電話が切れても、まだ興奮が続いている。
俺は自分のトレンド入りとかどうでも良くて、蓮が三位だったことが嬉しすぎた。
初主演で、まだまだ知名度もそれほど高くなかった蓮が世間の注目をあびている。SNSに上がってる動画の蓮と、ドラマの蓮とのギャップ。
な、最高だろ? となぜか当事者でもない俺がホクホクしていた。
あきれんの二位も、むちゃくちゃ嬉しかった。
「ずっと二人を見ていたい」「尊い」「キュンキュンする」みんなの声を見れば見るほど、俺たち最高じゃん、と嬉しくて胸がいっぱいになった。
ドラマを観てからSNS動画に流れた人もいっぱいいるようで、動画関連の声もあふれていた。
「あきれんってガチでできてない?」「あきれんラブラブじゃん!」「素の二人が尊い」など、とにかく俺たちがラブラブに見えるらしい。
どうしてか、胸の中がじんわりあたたかい。
予想以上に反響が大きくて、とにかくすごく嬉しくてふわふわしている。
蓮に、早く会いたい。
家を出てエレベーターに乗り、駐車場に向かう。SNSの声が頭の中をグルグルしていた。
「蓮と秋人のギャップやば過ぎる!」「攻めと受けがドラマと逆すぎん!?」俺は思い出して吹き出した。
クックッと笑いながら迎えの車に乗り込むと、運転席でマネージャーの榊さんが「朝から楽しそうだな」と苦笑した。
「だって。SNS見ました? やっぱ蓮、最高」
笑いの止まらない俺を見て、榊さんの顔がふと安堵したように見えた。気のせいだろうか。
「ドラマが好評だったな。初めての役柄だったが、なかなか及第点じゃないか。世間の反応も良かった」
「え、榊さんが辛口じゃないの初めてなんだけど。どうしよう」
「は? 俺いつも辛口か?」
「うん。初回放送後はいつも反省会でしょ、車の中」
「……なるほど。まあ今回は、すごく良かったからな」
榊さんの言葉に、思わず飛びついた。
「マジですか! すごく良かった?! 俺!」
「ああ、役にぴったりはまってた。お前と正反対な役柄なのにな」
「うわマジかぁ! 榊さんがダメ出しなしで褒めてくれんの初めて。すげぇ嬉しい。ありがとうございます!」
「お前、今回すごい頑張ってるよな。何か特別な理由があるのか?」
榊さんの言葉に、何かひっかかりを感じた。
でもバックミラー越しに顔を見てもいつも通りで、考えすぎか、とすぐに頭を切り替えた。
「俺、この仕事受けて良かったって心から思えたの、初めてかもしれないです。ドラマはまだちょっと苦手だから、どっかいつも構えてて。でも今、毎日楽しくて。蓮がいるからかな」
「……そうか」
ふと窓に映ってる自分の顔が、今にもこぼれんばかりの笑顔だった。
無自覚だったから、何俺どうした、と自分におかしくなってクスクス笑ってしまった。
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