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スタジオ入りすると、昨日の成果をお祝いするムードであふれていた。
視聴率も予想以上だった。この数字を下げないようにみんなで頑張ろう! という監督のかけ声にワッと声が上がって拍手が起こった。
スタッフからも数名、直接声をかけられたが、なんとなく違和感があった。どこかぎこちないような、顔色を見られているような。気のせいだろうか。
「秋人くん」
「あ、監督。ドラマ好発進おめでとうございます」
「秋人くんも、おめでとう。ありがとうね」
「とんでもないです。これからも頑張ります」
「……うん。それほど気を落としてないようで安心した」
監督はどこか言いにくそうに、眉を下げて俺の肩をポンと叩いた。
「気を落とす、ってなぜですか?」
なんのことか分からず、首をかしげた。
「もしかして見てないのかい? まあ一部の声だったが、ちょっと……」
「あ……もしかして酷評でもありました……?」
「あ、いや、酷評まではいかないよ。ランキングも蓮くんの方が上だったりとかね。知名度から考えたら逆かなとみんな思っていたから」
スタッフの人たちがぎこちなかったのは、そういう理由だったのか。
「全然、気にしてないです。ていうか俺、蓮のほうが気になってたから自分のことみたいに嬉しくて」
嬉しさを隠すことができなくて、顔がゆるんでしまった。
「君たちは本物のニコイチみたいだね」
監督は、嬉しそうに目を細めて微笑んだ。
俺はニコイチになりたいと思っているけれど、蓮がどう思っているかは分からない。
でも、そう見えるんだと思うと胸がくすぐったくなった。
「……演技のことは、自分の力不足だって痛いほど分かってるので、言われても仕方ないと思ってます。でもあの……実は今、こっそり演技レッスン受けてるんです」
レッスンなんて今さらすぎて恥ずかしいが、少しでも蓮に並びたくて始めた。
「蓮の足を引っ張りたくなくて。これはあいつの初主演だから。最高のドラマにしたいから」
「秋人くん……」
監督は驚きながらも、それはいいね、と何度もうなずいていた。
今回俺の酷評が出たことも、ドラマに何か影響が出るかもしれない。迷惑がかからなければいいが……。
「もっと早くやってれば良かったって、反省してます。俺、もっと頑張るので、厳しくご指導よろしくお願いします!」
深く頭を下げると、周りにいたスタッフから数名パラパラと拍手がわいた。
「秋人くん、今すごくいい顔してるね。蓮くんとの出会いがいい影響になったのかな」
監督は優しく笑ってから、すぐに眉を少し下げた。
「ただね。ちょっと自己評価が低いかな。君は自分が思っているよりもずっと良い役者だ。もっと自信を持ちなさい」
「あ……ありがとうございます」
「このドラマは、きっと君の代表作になる。一緒にいい作品にしよう」
監督に笑顔で肩を叩かれ、スタッフには拍手を送られた。ちょっと恥ずかしくなった。
監督が良い役者だと言ってくれたことが素直に嬉しい。もっと自信を持とうと思えた。
監督の言うように、蓮との出会いが本当にいい影響になっている。
なにより俺のためというより蓮のために、いいドラマにしたいと頑張っていることを、自分が一番不思議に思っていた。
でもどう考えてみても、俺よりも蓮のほうが比重が大きいのだ。
やっぱり、俺のニコイチは蓮がいい、とあらためて思った。
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