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午後になって蓮が合流した。
スタジオに入ってきた蓮に、俺は笑顔で駆け寄った。
「蓮!」
飛びつくようにガバッとコアラ抱きをする。
「蓮、おめでとう!」
「あ、秋さんも、おめでとう」
ああ嬉しい。癒やされる。ずっとこうしていたい。
「ごめんね秋さん、俺寝ぼけてて。半分くらい覚えてない」
「え、お前そんなに寝起き悪いの?」
「うん……へへ」
蓮から飛び降りて離れ、二人で用意されている椅子まで移動して座った。
俺は蓮に見せたかったSNSのコメントを次々と開いて見せていく。
「な、お前すげぇ高評価じゃん。やったなっ」
「ありがとう、秋さん」
声がなんとなく元気がなくて、スマホから顔を上げて蓮を見た。
「どした蓮?」
「うん……」
「なんだよ? ああ、お前も聞いたの?」
「えっと……」
「これ言うの2回目だから最後な。自業自得だから気にしてないし、俺もっと頑張るからさ」
「え? 自業自得……って何の話?」
蓮が眉をひそめる。あ、これは余計なことを言っちゃったやつだな、とうなだれた。
「あー……いや。それはいいんだ。で、蓮はどうしたんだよ?」
「……うん。あの……俺が今回三位だったのって。秋さんがSNS動画で、俺のこといっぱいかまってくれたっていうか、注目あびるようにしてくれたからで……」
「んん?」
「だから全部秋さんのおかげだって思って。それで、なんか俺、秋さん追い抜いちゃったから……それはなんか違うよなって……ごめんなさ――――」
「まてまてまて。お前は何を言ってんの?」
「…………だって。あの動画がなかったら、絶対秋さんが上位だったのに」
「はぁ。卑屈になってんなぁ……」
「ごめんなさい、秋さん……」
気にくわない。謝られても少しも嬉しくない。
「きらいだな、そんな蓮」
「えっ」
「なんか違うんじゃねぇの? もしそうだったとしても、それ謝られて俺嬉しいと思う?」
「お、もわない……。でもどうしたらいいか分かんなくて」
耳としっぽが垂れているのが見えそうなほど、シュンとしている。
違うとは分かっていても、謝らずにはいられなかったんだろう。
本当に蓮は、どんなときでも真っすぐだ。
「そもそも何を勘違いしてんのか知らねぇけど。あの動画は、俺が蓮を大好きだってのと。蓮がひたすら可愛いってだけの動画だし」
「は、えっ」
「それに俺に関して言ったら、そこそこ酷評も上がってたみたい。それふくめての五位だから。それがもし三位とかだったら、今よりもさらに酷評だらけだったんじゃねぇかな」
「酷評……って秋さんが? 秋さんの何が?」
「いいんだってそれは。それよりも俺はさ。蓮が三位で嬉しいの。めっちゃ。演技力抜群でさ、イケメンだしすげぇいいやつだしすげぇ可愛いし、俺大好きだからさ」
手を伸ばして頭をグリグリしてやった。
「俺も酷評は悔しいから、もっと頑張るし。もっと演技勉強して、次は演技力で役とってやるって思ってる」
「秋さんっ。うん、俺も負けないくらい頑張るっ!」
「ははっ。うん」
蓮は、はぁ良かったホッとした、とやっと顔をゆるめた。よほど気に病んでいたようだ。
頭をワシャワシャ撫でてやると、めずらしく文句も言わずニコニコ笑ってされるがままになっていた。そして、コテンと俺の肩に頭を乗せて腕に抱きついてくる。
俺はよくやるが、蓮からはめずらしい。というより初めてではないだろうか。
だからドキッとした。思いもよらなかったので、驚いて心臓がはねた。
「秋さん、ありがと」
「ん。俺の方こそ、ありがとな」
蓮の腕が、さらにギュッとからんでくる。
なんだろう、この可愛い生きものは。
この貴重な蓮からのからみがもったいないので、近くにいた蓮のマネージャーを手招きしてスマホを手渡し、写真を撮ってと身振りで伝えた。
すぐさま理解して、ササッと写真を撮ってくれた。
自分のスマホでも撮っていたが、蓮のマネージャーなので大丈夫だろう。
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