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結婚式✦side秋人✦ 終
蓮は俺をそっと優しく床に降ろし、俺たちは再びみんなの前に並んで立った。
本当は誓いのキスの前にやるはずだった指輪交換。
順番が入れ替わったって自由だから気にしない。
京がリングピローを持って参列席からやってきた。
「え、なにやってんだ? あれ」
リングピローを手に、しゃがんだ状態でちょこちょこと歩いてくる京に俺たちが吹き出すと、みんなも堪えきれないというようにどっと笑った。
「京くん可愛いー!」
「なになにどうしちゃったの? 可愛いからいいけどっ!」
京は必死に足を回転させ、やっと俺たちにたどり着く。
「なぁ、それなんの演出?」
「ぼく子供でしゅ。リングピローは子供が運ぶんでしゅ」
「ぶっはっ! お前それ面白すぎだろっ!」
蓮も吹き出しみんなも爆笑して、チャペルが笑いに包まれた。
京は目をくりっくりに大きく開き、笑顔で俺たちを見る。
親ゆずりのハニーベージュの髪と薄い青緑の瞳のせいなのか、本当に愛くるしい子供に見えてくるから怖い。
「リングピローは普通子供なのか?」
蓮に聞くと「そういう演出もあるね」と笑いながら答える。
「え、普通じゃねぇの? ……マジ?」
京はびっくりした顔で目を瞬いた。
「ふはっ。最高に面白いからいいじゃんっ」
「……うん、いいでしゅ。最後までやりきるでしゅ」
そして、若干照れた顔を隠すように「はいでしゅ」とリングピローを俺たちに差し出した。
参列席では、まだみんなが楽しそうに笑っている。
京のおかげで最高に楽しい演出になった。
「じゃあ指輪の交換っ。どっちからはめる?」
マイクからリュウジの声。
それは決めてなかったな、と蓮の顔を見た。
「秋さん、同時にやらない?」
「え、同時?」
「できるよ、きっと。ね?」
蓮は婚約指輪も女性がはめるものだと知って、買うのをやめていた。
普通、指輪交換は新婦の次に新郎だ。だから蓮は順番をつけたくないんだろう。
「ん。じゃあ同時にしよっか」
「うん」
リングピローからそれぞれ指輪を手に取り俺たちは向き合った。
やりきったというようにすっくと立ち上がり「じゃな」と参列席に戻ろうとする京に、言葉をかける。
「京! さんきゅっ。めっちゃ可愛かったよ」
「だろーっ?」
俺たちを振り返ってウインクを投げ、京は満面の笑みで戻って行った。
あらためて蓮と二人、指輪を手に向き合った。
指輪が届いてから今日まで一度もはめていない。今日の日ために取っておいた。
お互いに左手を差し出し、同時に薬指の先に指輪がふれた。
手を添えて指輪をはめるのとは違い、浮いてる手に指輪をはめるのは違和感が半端ない。
「……難しくね?」
「できるよ、大丈夫」
笑顔の蓮と見つめ合う。蓮がうなずき、俺もまたうなずいた。そして、ゆっくりと指輪をはめていく。
左手の薬指に、それぞれの指輪が同時にはまった。
二人の指に輝いた傷ひとつないお揃いのプラチナリング。
それは、一生を共に過ごすという約束を交わした証。永遠の愛を誓い合った証。
俺は感動で胸がいっぱいになって、ふたたび涙があふれ出す。
もう俺だめだ……。泣いてばっかじゃん……。
そんな俺を、蓮はそっと抱きしめた。
「秋さん、愛してる」
「……っ、れん……」
また涙が崩壊した。
「はいっ、じゃあ、あらためて誓いのキスをどうぞっ!」
リュウジの言葉にみんながどっと沸いて「いいぞー!」「素敵っ!」歓声と口笛が響いた。
なんでもありの人前式。マジで最高……!
俺が顔を上げると、蓮の手が優しく頬を包んだ。
幸せいっぱいに微笑む蓮の目にも涙があふれていた。
ゆっくりと顔が近づいて唇が重なった瞬間、蓮の目から涙がこぼれ落ちる。
二人で泣いちゃおっか、と言った蓮の言葉どおりに、俺たちは大歓声の中で泣きながら誓いのキスを交わした。
結婚証明書は、参列者全員に署名をもらった。真紀さんが用意してくれた特別な証明書。
ここにいる全員の名前が並んだ証明書を眺めて「幸せすぎる……」と言葉がこぼれた。
「うん。本当に幸せすぎるね」
「……ん」
結婚証明書がこんなに嬉しいなんて想像してなかった。
「全員が署名したから聞くまでもないけどっ。二人の結婚を認める方は全員起立して拍手をお願いしますっ!」
リュウジの呼びかけに、参列席の全員が一斉に立ち上がり、わっと拍手が沸き起こった。
その音はチャペル内に響き渡り、俺たちの心を震わせた。
「ありがとうございますっ。みなさまの承認を得ましてっ、ここにめでたく秋人、蓮くんの結婚が成立しましたっ! 二人とも結婚おめでとうっ!」
「おめでとーーーっ!」
みんなが声をそろえて祝福してくれた。
籍を入れられない俺たちが、どうしてもこだわった結婚式。
これで本当に俺たちは夫夫だ。
もう一生、蓮と一緒にいられる。
なにがあってもずっとそばにいられる。
俺は安心感と幸福感で胸がいっぱいになって、感動でふたたび涙が込み上げた。
「それでは、二人の末永い幸せを祈りましてっ。新郎秋人、新郎蓮くんの人前結婚式を閉式とさせていただきますっ!」
チャペルがふたたび大きな拍手と歓声で包まれた。
俺たちの結婚式がもうすぐ終わる。
でも、チャペルを出るまでは結婚式だ。まだもう少し、この夢のような世界にいられる。
「それでは二人をフラワーシャワーでお見送りしますっ。新郎二人の退場ですっ」
リュウジの言葉に俺は驚いた。
フラワーシャワーはチャペルを出てからの演出で、俺たちはできないと思っていた。
まさかチャペルの中で実現できるなんて思っていなかった。
退場の曲が流れる中、通路に並ぶみんなの間を、俺たちは手を繋いでゆっくりと出口へと向かった。
「おめでとうっ」
「幸せになってねっ」
「いままで見た、どの結婚式よりも最高だったぞっ!」
みんなの祝福の言葉に包まれながら、花びらの舞う中を二人でゆっくりと歩く。
最高に幸せな結婚式。 終わりが近づくにつれ寂しさが募っていく。早く二人になって蓮に抱きつきたい気持ちと、この瞬間がもう終わってしまう寂しさとで、胸がいっぱいになる。そんな複雑な感情が心の中にあふれ返っていた。
チャペルの出口にたどり着いてしまった。
真紀さんと榊さんが、黒い布を手に俺たちに近づく。
二人が布を広げようとした瞬間「待ってください」と蓮が静かに口にして、二人の背中を参列席側へと優しく押した。
蓮は驚く二人になにも言わず微笑みかける。
あとはチャペルを出て終わりのはずだった。
困惑する俺に、蓮は優しく微笑んで繋いだ手をぎゅっとにぎり、みんなのほうに向き直る。
みんなが不思議そうに見守る中、蓮は静かに口を開いた。
「今日は本当にありがとうございました。バレたら大変だとわかっていながら、どうしても結婚式を挙げたい俺たちのわがままに快く協力してくれた真紀叔母さん。仕事の合間に時間を割いて、必死で考え準備をしてくれた美月さん、榊さん。突然の司会やリングピローの演出をしてくれたリュウジさん、京さん。そして、今日俺たちのためにここに集まってくれた、秋さんのお義父さん、お義母さん、それから俺の父さん母さん、姉さん義兄さん。みなさん本当にありがとうございました」
チャペルに熱い拍手が鳴り響いた。
「俺はこれから、一生秋さんと共に歩んで行きます。秋さんを一生幸せにすると誓いますっ」
もう本当に、どうしたらいいだろう。
幸せすぎて死んでしまいそうだ。
視界が涙で滲んでいく。
「今日は本当に、想像していた結婚式よりも、ずっとずっと最高に幸せな結婚式でしたっ! 本当にありがとうございましたっ!」
蓮が深く腰を折って頭を下げた瞬間、俺の感情は限界に達した。
俺はあまりにも蓮を愛しすぎていて、その愛が身体中からあふれ涙となって流れ落ちた。
チャペルに響き渡るみんなの歓声と拍手の音が、ますます俺の涙を誘い、もうどうすることもできなかった。
みんなが俺たちを囲んで、花びらがふたたび頭上から舞い降りたとき、俺の胸の中はあふれるほどの幸せでいっぱいになった。
「絶対幸せになれよっ!」
マイクからリュウジと京の声が響く。
こんなにたくさんの幸せをみんなからもらって本当にいいんだろうか。
俺たちは本当に幸せ者だ。
蓮との出会いは、俺の人生を一変させるほどの奇跡だった。
蓮の優しさと強さにふれるたびに、俺は自分自身に向き合うことができた。自分でも知らなかった本当の俺に出会うことができた。
心を完全に解放し、さらけ出し、素直に甘えられる唯一の存在。
そんな蓮が、俺を選んでくれた奇跡に心から感謝する。
今日のこの幸せを、俺は永遠に大切にしたい。
繋いだ手をぎゅっとにぎりしめると、蓮も同じように力強くにぎり返してくれた。
蓮のあふれる愛が、手のひらから伝わってくる。
どうしてもいま、俺はもう一度伝えたくなって、涙を流しながらも必死で声を絞り出した。
「愛してる……俺の蓮……」
蓮は優しく俺を抱きしめ、幸せいっぱいの声で答えた。
「うん。愛してる、俺の秋さん」
その答えは期待どおりで、心が震えた。
俺はもう、絶対にお前を離さない。
愛してるよ、永遠に――――……
end.
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