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わがままドッキリ✦side秋人✦3
もうやめようかな。蓮は何をしても怒らない気がする。機嫌の悪くなる蓮……本当に想像できない。
でも……ここまで来たら、蓮に怒ってもらいたい。変な俺をちゃんと叱ってほしい、そうも思う。
もう少しだけ、やってみようかな。
「蓮」
「うん?」
「シャワー連れてって」
「うん、行こっか」
起き上がって、俺の中から出ていこうとする蓮の腰に足を絡めホールドする。
「このまま。このままシャワー連れてって」
「っえ? このまま?」
「蓮のがこぼれるだろ。だからこのまま」
「あ、そっか。いつもそうすれば良かったね」
ニコニコして繋がったままコアラ抱きでベッドから降りる蓮。
…………やっぱわがままムズいな。
シャワーでもわがまま……と思ったのに、蓮は俺が何も言わなくてもパパッと俺を洗って中を綺麗にして、俺は何もしなくてよかった。そうだ。いつもこうだった……。
「蓮、姫抱っこがいい」
「あれ、めずらしいね。うん、いいよ」
シャワーのあと、リビングまでの道のりを姫抱っこで運んでもらう。
蓮は怒るどころか超ご機嫌で、俺は首をかしげる。意味がわからない。
でも、とりあえず役得じゃん、と考えをあらためて俺は蓮にひっついた。
「蓮ー。だるいー。ご飯用意してー」
「はいはい。じゃあいい子で待っててね」
「チーズカレーな」
「うん、了解」
なんで蓮はどんどんご機嫌になっていくんだろう……。おかしい……。
ウキウキって文字が蓮の頭の上に見えるようだ。
もしかして、わがまま言うと蓮は喜ぶだけなのか?
…………ありえる。すげぇありえる。だって蓮だもん。
なんかもっといいわがままないかな。誰か教えてっ!
とにかくご機嫌な蓮とカレーを食べて、俺は食器も片付けず「蓮、やっといて」とソファに移動した。
俺はわがままプラスで、感じ悪く振る舞うことにする。
さすがにこれならちょっとはムッとするだろ。
「秋さん今日はもう寝る? 早く寝たほうがいいんじゃない?」
蓮は俺が疲れてると思ってそんなことを言い出した。
「は? 寝ねぇよ。まだ九時すぎじゃん」
「ん。じゃあ休んでてね。あ、ビール飲む?」
「……いらない」
「そっか」
もー……。蓮……優しすぎる……。はぁ……好き。
蓮が食器洗いを終わらせると、突然「散歩行かない?」と言い出した。
「散歩?」
「うん、ちょっと気分転換に。ね、アイス食べたくない? コンビニまで散歩行こうよ」
行くっ!
即答しようとして思いとどまる。
ドッキリだ、ドッキリだった。
「……アイスは食いてぇけど、今は散歩はいいや」
「ちょっと気分転換だよ。ね、行こ?」
「やだ。めんどい。でも、アイス食べたくなった。買ってきて」
蓮はちょっとだけびっくりした顔で俺を見返す。
だよな。俺、蓮を使いっ走りになんてしたことねぇもん。
「うん、いいよ。じゃあ買ってくるね。秋さんパルノ?」
俺のお気に入りのアイスの名前。俺がアイスと言えばバニラアイスにチョコがかかってる物が好きなことを、蓮はよく知っている。
でも今日は……。
「今日は違うのがいい。ガリガリちゃんのソーダ」
「えっ、めずらしいね?」
バニラアイス大好きの俺がソーダ味を食べるなんて、たぶん蓮は初めて見るだろう。
「うん、わかった。待っててね」
蓮は俺の唇に優しくキスをして、リングケースの横に置いてあるチェーンに結婚指輪を通し首にかけ、リビングを出ていった。
玄関を出ていく音が聞こえるまでが長かった。部屋着からちゃんとした服に着替えて行ったんだ。
蓮がいなくなって、俺はソファに倒れ込む。
蓮……ごめん。わがままごめん。蓮……早く怒ってよ……。
「うあー……蓮と散歩したかったぁ……っ」
蓮と並んで歩きたかった。たまには世間の人達に、俺たち仲良しだろっ! って見せびらかしたかった。
…………明日のデートは、どっか人がいっぱいのとこに行こう。
蓮がエコバッグを下げて帰ってきた。
「おまたせ秋さん」
ニコニコ笑顔でガリガリちゃんソーダを俺に渡してくる。
このわがままを言ったらさすがに怒るかな。そろそろ怒るだろ。
「やっぱりパルノがいい」
すると、蓮が目を瞬いた。
「なぁ蓮。やっぱ俺パルノがいい。もっかい行ってきて?」
コンビニはマンションの目の前だ。それでも、蓮がコンビニに行くのは注目を浴びるからストレスだろうし、往復なんてダルすぎる。
怒れ怒れ……怒れよ、蓮。
蓮は俺をじっと見つめてクスッと笑って「ガリガリちゃんは返品する? 冷凍庫入れておく?」なんて聞いてきた。
なんでそこで笑う? なんで怒んねぇの?
なんでそんなに優しいんだよ……。
「……冷凍庫……入れとく」
「うん、わかった」
蓮がアイスを冷凍庫にしまいに行く。
どうしよう。もう蓮をコンビニに行かせたくない。
なんかないかな。わがまま……わがまま……。
「なぁ、蓮」
「なに?」
「ドライブ行きたい」
「え?」
「夜景っ。夜景見たい。急に見たくなった。ドライブ行こっ」
「今から?」
「今からっ!」
冷凍庫にアイスをしまった蓮が、俺のそばまで来て隣に腰かけた。
「秋さん。やっぱりなんかあった?」
心配そうに俺を見つめて、俺の手を優しくぎゅっと握ってくる。
「なんもねぇよ」
「……本当に?」
「ほんとだって。なんもねぇよ。なぁ、ドライブ行こ?」
「……俺が運転していいならいいよ」
「うん。じゃ、早く行こ」
蓮の手を振り払って俺は立ち上がる。
感じ悪いよな? イライラするだろ?
いいかげん怒ってくれよ……。
俺は変装もなにもせず、そのまま玄関に向かった。
「秋さん着替えは?」
「このままでいい。ジャージだし」
「そっか。あ、ちょっと待って」
蓮は俺のチェーンを手に追いかけてきて、俺の指から指輪を優しく抜き取ってチェーンに通し、首からかけてくれた。
蓮……ごめん……。指輪を首にかける必要はないんだ。ないんだよ……。
蓮が靴をはいて車のキーを手にしたとき、俺はまたわがままを口にする。
「……やっぱだるい」
「え?」
俺は靴もはかずに壁に寄りかかってだらけて見せる。
「秋さん?」
「…………やっぱドライブ行くのやめる。なんかどうでもよくなった。面倒くさくなった。だりぃ……」
これはさすがに怒るだろ。怒るよな?
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