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鼻の奥がツンとして痺れるほど、熱い涙がこみ上げてくる。
「…………蓮……」
想像以上にひどい涙声が出た。
「……秋さん?」
怪訝そうに眉を動かして目を開いた蓮は、涙目の俺を見て、狼狽したようにオロオロした。
「秋さんっ、どうし――」
「大丈夫。なんでもない」
涙を隠すように、蓮の肩口に顔をうずめた。
蓮は一瞬体を揺らしたけど、それよりも俺を気づかってくれた。
「あ、秋さん。やっぱり体調が……」
「……ん。でも大丈夫」
「……秋さん」
優しい声が耳に嬉しい。蓮の手が、背中を優しくさする。
ようやく、息ができた気がした。
まるで水の中にいるみたいに苦しかったのに、今は嘘みたいに呼吸が楽だ。
「蓮……今の話さ」
つぶやくように話し始めると、蓮はギクリと体を震わせた。
だから安心してほしくて、蓮の体を包むように腕をまわした。ビクッと身体を震わせる蓮が可愛くて、顔がゆるむ。
抱きしめるみたいになってしまったが、今の俺は高揚感に包まれていて、ささいなことは気にならなかった。
「そんなことで、きらいになったりしないから」
「ほ、本当……?」
「きらいになるわけねぇじゃん」
「…………でも、気持ち悪――」
「悪くない。だって俺、蓮のことすげぇ好きだし」
「あ……俺もっ、秋さんが大好き」
相変わらずワンコのような蓮が可愛くて、嬉しくて胸がいっぱいになった。
「……俺さ。蓮と……ニコイチになりたいんだけど……」
「はぇっ!?」
「……だめか?」
「だめじゃない!」
「じゃあ、もう俺たち……ニコイチな」
「はい、嬉しいです!」
「それ敬語な」
「え、あれ」
肩から離れて体を起こし、ワンコをあやすように蓮の頭を撫でまわした。
「あ、もうまた!」
「ははっボサボサ」
「だから誰のせい?」
蓮とニコイチになれたことが死ぬほど嬉しい。と言ったら蓮はなんて言うだろう。でも恥ずかしいから絶対に言わない。
離れていくのかと恐れたはずの蓮が、また俺の所に戻ってきた。ただそれだけで嬉しい。
涙を落ち着かせて、時間になるので二人でスタジオに向かった。
「で、あれで克服できたのか?」
「……うん、たぶんできたと思う。とにかく秋さんに知られたくないって気持ちが原因だったから、もう開き直ってやれるし……」
「てか俺さぁ。蓮の心臓の音が毎回すげぇの、かなり前から気づいてたけどな」
「………………っ」
ふっと蓮の姿が隣から消えたので後ろを振り返った。
足を止めて顔を赤く染めた蓮が「やっぱり聞かれてた……」とつぶやいて、羞恥心と戦っているみたいな顔をしているので、俺はケラケラと笑った。
「早く行くぞー」
その後の蓮は、まるでつきものでも落ちたような変わりようだった。
あの切ないシーンを完璧に演じきった蓮は、本当に見ほれるくらい格好良い。
これはまたファンが増えるなぁと思っていたら、監督のカットの声で、みるみる間に顔が真っ赤になった。
いったいどこに、そんな切り替えスイッチがひそんでいるんだろう。
本当に蓮は、可愛くて面白くて大好きな、俺のニコイチだ。
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