798人が本棚に入れています
本棚に追加
メンバーとの出会い✦side蓮
休憩所の自販機で、砂糖入りのコーヒーを選んでボタンを押した。
やや疲れを感じるので、砂糖を摂取しようと思ったからだ。
「あれ、間違えたのか? それ」
秋さんが、俺の手元の缶コーヒーに目線をよこしてそう聞いた。
「ううん。今日はちょっとこっちにしようと思って」
「ふぅん」
並んでソファに腰を降ろすと、秋さんがうーんと伸びをしてコテンと俺の肩に頭をのせる。
「あー疲れた。眠い」
「うん、俺もちょっと疲れたな」
秋さんの頭に頭をのせ返して、二人で寄り添って目をつむっていた。撮影の合間の休憩時間。
「おわ。あれ秋人か?」
「だな、見間違いかと思ったわ」
秋人、と聞こえてそちらを見ると、男の人が二人近寄ってくるところだった。
「秋人ー。せっかく顔だしたのに休憩かぁ?」
「こっちがうわさの蓮くんかな? はじめまして」
「あ、はじめまして」
誰だろう? と思いながら挨拶のために少し体を起こす。秋さんも一緒に、もそっと動いて「どしたの二人?」と眠そうに聞いた。
そうだ秋さんのグループの人達だ、とそこでやっと思い至った。
「俺らバラエティの収録終わったとこでさ。お前の撮影こっそりのぞきに来たのに、休憩とぶつかるとかタイミング悪いわー。あ、はじめまして蓮くん。リュウジです」
「はじめまして、神宮寺蓮です」
「俺は京。よろしく」
「あ、よろしくお願いします」
二人と握手をして頭を下げた。秋さんのグループは全員で八人。リュウジさんも京さんもすごく良く知ってるのに、すぐに分からなかったことに申し訳なくなった。
「あ、じゃあ俺は楽屋戻ります。どうぞごゆっくり」
立ち上がってペコッと頭を下げたら、秋さんが腕をつかんできた。
「なんで? いろよここに」
「あ、でも」
「蓮くん座って座って。俺らなんも用事ないし、逆に邪魔して申し訳なかったね」
「いえ、そんなっ」
そのまま引っ張られて、再び腰を降ろした。
「そういえば秋人、新曲の振り付けがさ――――」
三人が次の歌番組の収録について話をしている横で、手持ち無沙汰な俺は缶コーヒーのプルトップを開けた。一口飲んで眉が寄る。失敗した。甘すぎた。
俺が一人で固まっていると、隣でふはっと秋さんが笑った。
「やっぱ飲めねぇの?」
そう言って俺を見ながらクスクス笑う。
「いつもブラックなのに、ずいぶん甘いの選んだから。そうなるんじゃねぇかなって思ってた」
「……もうちょっと微糖かと思って」
「ん。こっちやるよ」
開けていないブラックコーヒーを手渡してきて、飲みかけの缶を俺の手から取りあげた。
「え、でもそれ飲みかけだし」
断ろうとしたけれど秋さんは気にせず口をつけて、一気に半分くらいゴクゴクと飲んでしまった。
「ん、疲れてるから丁度いい」
そう言ってふわっと微笑みかけてくれた。秋さんの優しさが心にしみる。
本当に、好きだなぁ、とあらためて思った。
最初のコメントを投稿しよう!