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「社長、すみません。俺、この仕事やりたいです。やらせてください、お願いします!」
はっきり言って、まだ主役を張れる器じゃないことは十分に理解している。
それでも、何番目かは分からないけれど俺を選んでくれた、その人に答えたい。
きっと次こそはという気持ちで、良い返答を待ってくれているに違いない。
あふれるほどの俳優の中から、まだ芽が出たばかりの俺を見つけ出してくれた。その人と一緒に仕事がしたいと強く思った。
社長はたった一言「うん、いい顔をしてる」と言って、俺の肩を強めにたたき笑顔でうなずいてくれた。
顔合わせの日。初めてテレビを通さずに彼を見たとき、なんて綺麗な人だろうと息をのんだ。
身にまとっているオーラが凄すぎて、飲み込まれるかと本気で思った。
サラサラの栗色の髪には天使の輪が見えた。
俺よりも頭一つ分とまではいかないけれど少し小柄で、なによりも美しすぎた。それでいて男らしく凛々しい、めちゃくちゃカッコイイ男の人。
ダンス&ボーカルグループ『PROUD』のリーダー久遠秋人。二十三歳。テレビを通してならよく知っていたはずなのに、初めて見る久遠 秋人がそこにいた。
まだ数人しか集まっていない部屋で、皆が自己紹介をしながら挨拶を交わしていた。
そのとき、彼が俺に気がつくと、穏やかな口調で「はじめまして」と声をかけてくれた。
簡単に自己紹介を済ませた後「下の名前で呼び合おうよ」と提案され、しばし考えた末に俺は「秋さん」と呼ばせてもらうことにした。
この部屋に入った瞬間から、その姿をみた瞬間からずっと、俺は秋さんから目を離すことができずにいる。なぜだかわからない。
吸い込まれるように秋さんばかり見ていた。
今はマネージャーらしき人と話をしている秋さんの姿を、ただただ見つめていた。
秋さんの周りがキラキラ光っている気がするのは俺だけなんだろうか。
オーラはテレビに映らないんだな、としみじみ一人で納得したとき、不意にこちらを見た秋さんと目が合った。ドキッとした。
すると、秋さんは驚いたように目を見開いて、ぶはっと吹き出した。
「なんだそれ」
と声を上げて笑った。
わけがわからなかった。
「俺のこと?」
「え……っと、何がですか?」
「今の、オーラとかテレビとか」
「…………えっ?!」
どうやら心の声が漏れていたらしい。
「何もう蓮くん、すげぇ面白い」
「…………っ」
心の中を覗かれた気分になった。恥ずかしくて、じわっと顔に熱が集まる。
「え、何ちょっと、かわい――――」
言いかけた口を手で押さえ、秋さんが肩を震わせて笑っている。
「いや、もう、勘弁してください……」
俺は真っ赤になっているだろう顔を両手で覆った。
「ははっ、もう俺、蓮くん、めっちゃ好きっ」
秋さんがふたたび笑い声を上げながら、途切れ途切れにそう言った。
「だっ! から……」
顔から手を退けて声を上げた俺は、破顔した秋さんの笑顔に見惚れて言葉を失った。
その美しさの破壊力に、俺は完全にやられてしまった。
こんな素敵な人が俺の相手役だなんて、本当にどうしたらいいだろう。
今からこんな調子で、情けないけれどまともに演じられる自信がない。本当に……。
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