二人の出会い・秋人編✦side秋人

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二人の出会い・秋人編✦side秋人

 顔合わせで初めて会ったとき、やたらと俺に視線を向けてくる蓮に、内心またかと正直思った――――。  さっき挨拶を簡単に済ませた相手役の蓮が、ずっと俺を刺すように見ている。 「…………またか」  落胆のため息がもれる。  俳優と仕事をするとき、俺はいつも警戒している。いつ敵意を向けられるかわからないからだ。それがたとえどんなに小さな敵意でも。  今回の相手役もまた『役者でもないのに主演かよ』とでも思っているんだろう。冷めた目で俺を見ているのかと思うと落ち込んだ。  過去にも何度か、嫌味を言われた経験がある。直接的な言葉は滅多にないが、耳に入ってくる程度には。  自分の演技力が未熟なことは自覚しているが、それでも悔しい。  誰も文句が言えないくらいに、もっと上手くなって見返してやりたいと思う。  こんなに遠慮なくジロジロ見てくるんだ。今回は直接言われるのかもしれない。覚悟しておこうと思った。  蓮は人当たりが柔らかく、初めて会った瞬間から好きだな、と思っていた。だから余計に落ち込んだ。  いったいどんな顔で俺を見ているのかと気になって、さり気なく蓮を確認してみた。  すると、俺はいい意味で裏切られた。そこにある蓮の顔は、ただもう可愛いとしか言えなかったから。  どこかほおけていて、わずかに口を開いてポケっとした表情。どう見ても俺を敵視している顔ではなかった。  スラリと長身でバランス良く整った顔。優しそうで爽やかな、とにかく良い男。それがどういうわけか可愛く見えるからびっくりだ。  なんつー顔で俺のこと見てんの?  笑いが漏れそうになる。  一瞬確認しただけなのに、蓮の視線を感じるたびにさっきの顔が浮かんでくる。  それだけで笑ってしまいそうで、俺は必死でこらえた。   「オーラはテレビに映らないんだなぁ」  ふいに消え入りそうな蓮のつぶやきが聞こえてきて、とっさに蓮を見た。  変わらず俺を見ている。間違いなく俺を見て言った言葉だ。そのほおけた顔で。  たまらなくなって吹き出した。  俺のことかと蓮に聞くと、みるみる顔を赤らめた。  どうやら口に出した自覚がなかったらしい。  おかげで腹がよじれるくらい笑わせてもらった。   「秋さんの作品、俺いつも観てます」  蓮の言葉に、これは社交辞令かなと思い軽く「ありがとう」とお礼を言った。 「映画初主演の作品、あれ俺すごく大好きで。秋さんが泣き叫ぶシーン、何度観ても泣いちゃうんです」  その映画は少なくとも俺の代表作ではない。もう三年ほど前の作品だ。  でも、演じることが好きだと初めて思えたのがその作品で、蓮の言ったシーンは俺自身も思い入れの強いシーンだった。  こういうときは無難に代表作を上げる人が多いのに、あえてこの作品を上げてきた蓮の言葉には、本当に嘘がないんだろうなと思う。  だから余計に今もらった言葉が心にしみる。 「今回共演できて、本当に嬉しいです」 「俺も、相手役が蓮くんで良かった。これからよろしくな」 「はい! よろしくお願いします」  本当に嬉しそうな真っすぐな瞳。すごく好きだな、と思った。  そして、やっぱり可愛い。まるでワンコみたいだなと、思わず笑みがこぼれた。    
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