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溺愛の距離感✦side蓮
連日のように雑誌の撮影が入る。
ドラマの撮影でも無自覚にイチャイチャする二人を演じてはいるが、雑誌撮影になるとなぜこれほど溺愛の距離を求められるのか。
俺の最近の悩みはこれにつきる。
「今の世の中、腐女子がいっぱいいるのよ。二人のイチャイチャしてるところが見たいの。だから売れるの」
「はぁ……なるほど」
マネージャーの美月さんは、自分も腐女子と公言しているだけあってBLを語りだすと熱い。
「今回の役を蓮くんがやります! って言ってくれたときは本当に夢かと思うほど幸せで――――」
「あ、秋さんだ。ちょっと行ってきますね」
「あ、もうっ、また逃げるっ」
美月さんのBL話はいつも長い。逃げるのが正解だと社長に教わり、最近は迷わず逃げている。
「秋さん」
「おう、蓮。もうちょいしたら雑誌撮影だな」
「うん、でももう少し休めるね」
あと少しの時間まで休もうと、秋さんの隣の椅子に腰を下ろした。
なぜか秋さんがじっと俺を見てきて落ち着かなくなる。
「何? 秋さん」
秋さんの手が伸びてきて、俺の胸に当ててくる。数秒そうしてから手を離して、どこかホッとしたようにうなずいた。
「ね、それ何? 秋さんたまにやるよね」
「趣味」
「えぇ?」
「それより蓮、ドラマ始まる前から『あきれん』が尊いってネットニュース上がってたけど。見た?」
「見てない」
「お前、相変わらずな?」
ドラマの撮影も順調で、もう少しで放送開始だ。すでにSNSは大盛りあがりで、俺たちは『あきれん』と呼ばれているらしい。
俺はSNSは見ない。スマホの使い方も未だによく分かっていないし、イヤな情報は見たくないので丁度いいと思っている。
秋さんが、いい情報だけを色々教えてくれた。
昨日のネットニュースは、SNSで『あきれん』がトレンド入りし、スタート前から雑誌が売り切れて再販。SNSに毎日上げているカウントダウン動画の反響。ファンの「あきれん尊い」というSNSにあふれた言葉などをまとめた記事だったようだ。
「なんか、すごいね。放送前からこんなに反響あるの初めて」
「だな。俺もこんなの経験ねぇわ」
「BLってすごい……」
「BLってすげぇ……」
声がハモって、二人で笑った。
時間になって俺たちは移動した。
今回の撮影は、スタジオに入った瞬間に頭の痛くなるセットだった。
用意されていたのはベッド。もうそれだけで想像がついた。今日こそ倒れるかもしれないと覚悟した。そう簡単に倒れないことは分かってはいるが。
「わお。ベッドだぜ、蓮」
「……秋さん、楽しそうだね」
「うん、すっげぇ楽しみ」
撮影内容がどんどん過激になるのはなぜだ。
ドラマの撮影が始まった当初は、ドラマでさえ距離が近くてなかなか慣れず苦労した。
でも、今ではドラマなんて可愛いものだと思えてしまう。
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