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部活の勧誘
「ぼ、僕の名前は、す、すみだがくしです。よろしくお願いします!」
高校一年の二学期、僕は親の都合で転校した。
前の高校を去るのはまったく寂しくなかった。僕には友達はいない。だから、転校なんてなんともないと思っていた。
けど、この教室全員の注目を浴びる中での自己紹介をしないといけないのが、僕には辛い。
名前を紹介しただけで精一杯で、心臓はバクバクしてるし、顔が火照り、頭もクラクラする。
なんだか前もよく見えなくなってきた気がして……、いや、前というより、床を見つめてただけだけど、ずれ落ちる眼鏡をくいっと上げ、足元に注意して席に戻った。
なんか、クラスの盛り上げ役みたいのが、「墨田くん、よろしく!」と声をあげて拍手をしているが、愛想笑いを返すくらいしかできない。
どこからか、「ノリが悪いな」「この高校なんかになんで来たんだ?」と話す声が聞こえてくる。
僕もそう思う。この高校の雰囲気に僕はいづらい。
前の高校でもそうだったけど、この高校は前の高校よりもヤンキー臭い。
教室をちょっと見渡しただけで、金髪やパーマ頭がいくつか目につく。制服を着崩してるのは当然で、派手な色のTシャツを着ているやつもいる。
人を見た目で判断するのはよくないけれども、僕にとっては恐怖を感じる。
(なるべくつきあいたくない……)
休み時間、僕は持ってきた本を広げた。秘技、誰とも話さない、話させない。怖い人とは関わらなければいいのだ。
「墨田くん、なに読んでるの?」
僕は危うく椅子から転げ落ちそうになった。
突然話しかけてきた女子は、パーマがかった長い金髪を揺らす化粧ケバケバ妖怪。
「へぇ、墨田くんって、こういうの好きなの?」
まるで胸を強調するかのようなポーズをしてきて、上のボタンをはずした開襟シャツから濃いピンクの下着が見えた。というか、そうでなくても、彼女の下着は制服のシャツから透けて見えている。
(羞恥心というものがないのだろうか……)
「好きというか、謎解きみたいでおもしろくて……」
僕は広げた本――古文書に目を落としながら、応答した。
けど実は、ほとんど読めない。「くずし字辞典」を使ってなんとか読解してて、暗号を解くような楽しさを感じていた。
「ふぅん。ねぇ、郷土史研究部入らない? 部員少ないから入ってほしいなぁ」
「きょ、郷土史研究部?」
ケバケバ妖怪から知的な言葉が出てくると思ってなかった僕は、驚いて彼女に目を向けた。
案の定、彼女の胸が目の前に立ちふさがる感じになり、目を背ける。
「か、考えときます」
拒否も承諾もしない曖昧な言葉でとりあえず返答する。
「いい答えを期待しているわ」
なぜか耳元で囁いて、彼女は僕から去っていった。
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