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(郷土史研究か……)
とりあえずのつもりで「考えとく」と返答したけど、なんだかんだ考えてしまう。
前の高校では帰宅部だった。だから、今回もそのつもりだったのだけど、郷土史研究という魅力的な言葉にひかれる。
(いや、僕みたいな人間は、無駄に交流を広げないほうがいいんだ。また傷つくだけだ……)
「久野さんと話せるなんて羨ましいやつだな」
昼休み、ご飯を食べずに考えていたら、クラスの男子、赤髪君に絡まれた。
「いえ、別に……」
あんなケバケバ妖怪と話せて嬉しくもない。あんなのと話してたのが羨ましくなるなんて、理解できない。
というか、あの妖怪は久野さんという方だったのだと、今知った。
「ねぇ墨田くん、俺と友達になってくれないか? 俺も久野さんと話してみたいし……」
(そんな理由で友達ってなるものだろうか)
「ごめん。無理」
「はあ? 下手に出てお願いしたってのに!」
赤髪君はキレて首もとをつかんできた。
こうなるから、怖い人たちとは関わりたくない。
「だからごめんって、謝ってるでしょ」
「謝り方ってのがあるだろ!」
こんなバカが礼儀を重んじるなんて、笑えてくる。
「ぷぷっ」
(あ、笑いが漏れ出てしまった……)
僕が思った通り、赤髪君の顔がより怖い人らしくなっていく。
(あ、やられる……。やっぱり僕はここでも……)
赤髪君が拳を振り上げた。
そのとき、僕の前に金髪がゆらめいた。
「く、久野さん? どいてくれよ」
赤髪君が戸惑う声をあげる。
僕らの間に割りこんで立った久野さんが、僕を見つめてきた。
「郷土史研究部、入るのはどうする? 入るなら、部員として助けてあげるわよ」
(ひ、人の弱みにつけこむとは……)
久野さんのやり方はやらしいと思う。けど、おかげで入る決心がついた。
「郷土史研究部に入部します!」
晴れやかな気持ちで久野さんを見返すと、久野さんは「了解」とほほえんだ。
その久野さんの目が輝いたと思ったときには、久野さんは赤髪君を押し倒して早縄で縛り上げていた。
(す、すごい。早縄縛りができるなんて!)
「うふふ。私の大事な部員に手を出したら、ただじゃおかないからね。わかったぁ?」
「お、おう……」
華麗な技に僕が感動していると、久野さんはいつの間にか鋭利な簪の先を赤髪君につきつけている。
しゅんとしてしまっている赤髪君がなんだか可哀想になってくる。僕も少しバカにし過ぎたと、今になって反省する気持ちが出てきた。
「ごめん」
いたたまれなくなった僕は、今度は心からの謝罪をして、教室を出た。
そのまま行く先は職員室。郷土史研究部への入部届けを出すために。
*早縄とは、生け捕りにする忍術です。
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