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顧問楠木先生
「へぇ、郷土史ねぇ。顧問はたしか楠木先生だったかな。
あっちの中で一番若くてかっこいいのがそうだから、いってきな」
担任の音川先生に郷土史研究部入部を伝えると、少し離れたデスクにいる先生を指差した。面倒くさそうに応対した音川先生は、アイマスクをつけて昼寝に突入した……。
お疲れのようだ。アイマスクの上方に大きく広がる額と白髪が音川先生のくたびれた感じを強調している。
指差したほうには、若い男の先生は独りしかいなくてわかりやすい。たぶん楠木先生であろう爽やか系お兄さんのデスクへ向かう。
近づくと楠木先生は、ニヤニヤしながらパソコンを眺めていた。ちらりと画面を覗くと、遺跡の壁画のようなものが映っている。
「わ! あ、なに?」
話しかけるタイミングをどうしようかと考えていたら、僕に気づいた楠木先生が大げさに驚いた。楠木先生の丸っこい目が飛び出そうだ。
「あ、あの……、郷土史研究部に」
「え! 入ってくれるの? わぁ、ありがとう!」
僕が「入部する」と言う前に楠木先生が入ることを喜び、僕は笑顔でうなずくしかない。
「えっと、君は転校してきた……墨田、だったかな?」
「はい、墨田です。よろしくお願いします」
「私は楠木茂だ。気軽にくっきーでも、しげるとでも呼んでくれ」
「あ、はい……」
初対面の先生を気安く呼ぶ勇気は僕にはない。
ちょっと僕が戸惑うと、楠木先生は止まった空気を壊すように咳払いをした。
「ところで、墨田は古墳に興味あるか?」
「いえ。申し訳ないのですが、僕が興味あるのは古文書でして……」
「そ、そうか。好きなことを探求してくれ。まぁ、古墳にも興味を持ってくれたら嬉しいけどね」
「は、はい」
この部活では古墳に興味をもたないといけないのかと焦ったら、楠木先生は古文書の探求を許してくれた。
「では、部活でよろしくね」
そう明るく言う楠木先生の笑顔がなんだか固い。
僕が「よろしくお願いします」と返して楠木先生のそばを離れると、「はぁー」というとても残念がる大きなため息が聞こえてきた。
(せんせー! 楠木先生! 僕にため息聞こえてますよ?)
楠木先生は僕に気を使っていたのなら、僕が聞こえないところでため息を吐けなかったものだろうか。
やはり、古墳に興味なくても、古墳時代も好きだと言えばよかったのだろうか。僕は歴史が全体的に好きで、今の興味が古文書読解なだけだ。
楠木先生のため息を聞いてしまった僕は、部活の時間までもんもんと考えこむのだった。
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