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ラブ
部室には久野さんと一緒に行った。久野さんが目立つからなのか、久野さんと歩いていると周りにじろじろ見られて、気が重かった……。
「あら、部長。早いわね」
「文化祭までに完成させたいからな。おや、そいつはどうした?」
部室に入ると、そこには甲冑があり、その横にはそれを着て戦えそうな筋骨隆々な男子がいた。久野さんの発言によると、この人が部長らしい。
「新入部員よ」
「あ、墨田学史です。よろしくお願いします」
「おう。入部ありがとな。俺は二年の部長の郷 力輝だ。
見ての通り、文化祭に向けて甲冑を作っている。俺は戦国武将LOVEだからな。墨田くんのラブはなんだ?」
僕は「古文書読解」と言おうとして考え直した。先ほどの楠木先生のため息が耳に響く。
「えっと、歴史なら全部好きです」
「おお。それは素晴らしいな。それなら、俺とともに戦国武将を究められるかもな」
ぱっと見、図体がでかい部長はちょっと怖かったけど、武将を愛する気持ちは純粋で、悪い人ではなさそうだ。
「じゃあ、私は自分の文化祭の準備をするわ」
久野さんは部長とは違う工作を始めた。
「えっと、部員ってこれだけですか」
「ああ……。墨田くんが入ってくれて嬉しいよ。んでもって、俺と戦国武将を究めてもらえれば嬉しいな。だって、久野さんは忍びラブだし、しげるは古墳だし……」
「そ、そうなんですね」
久野さんが忍びラブだったとは知らなかった。まぁ、今日会ったばかりで知らないことばかりなのだけど。たしかに赤髪君をさばく久野さんの動きは忍びのように速やかで華麗だった。
ちらりと久野さんを見てみると、的のようなものを作っている。
「久野さんはなにを作ってるの?」
「手裏剣投げの的よ。当てれた人には私からのキスよ」
「へ、へぇ。オモシロイネ」
褒賞が本当にキスかはわからないけど、久野さんが僕に投げキスをしてきて、僕はとても寒くなった。まだ暑い九月だというのに。
「ま、こんな感じでラブなものを文化祭に向けて作っているんだが、墨田くんは文化祭でやってみたいラブなことあるか?」
「僕は……僕も甲冑作りでもいいかな……」
古文書ラブだけど、古文書読解を文化祭で披露してもつまらないだろうと思うと、なにをしたらいいかわからない。
「おしっ。じゃぁ、俺と戦国武将を極めようぜ。まずは、武将に会いに行こう!」
部長がぐっと僕の腕を引っ張り、扉へと向かう。とても力強く、抵抗できない。
「ぶ、部長! 甲冑作りはいいんですか?」
「ん? まだ時間があるから大丈夫だ。それよりも、墨田くんに戦国武将ラブになってもらうぞ。墨田くんも甲冑つくるなら、心をこめて作ってもらいたいからなっ」
有無を言わせず、部長は僕の手を取って部室を飛び出した。
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