ラブ(楠木茂)

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ラブ(楠木茂)

(さぁ、部室に行くぞ!) 「あら、楠木先生、今日は燃えてますね。うふふ」 「わ、わかります?」  拳を突き上げて立ち上がったら、隣の席のかわいい林先生に笑われてしまった。 「部活ですか? 熱心ですねぇ」 「はい。私は生徒のためなら熱くなる男です!」  林先生の手前、ちょっと格好つけて言ってしまった。     「それ、本当なら、英語がまったくできない生徒を助けてあげたらどうですか?」 「や、やろうと思っていたとこですよ」 「そうですか。期待してますよ、イングリッシュティチャー、ミスター楠木」  「任してください!」  胸をどんと叩くと、林先生はクスクス笑って職員室を出ていった。  なんだかちょっと切ない気持ちになったけど、私の心を部活動に切り替える。 (さぁ、部室に行くぞ!)  職員室を出て部室に向かう私の足取りは軽い。  なんでかって? だって、古墳に興味を持ってくれる仲間が増えるかもしれないではないか。 「古墳に興味がないなら持たせればいい……。そう、墨田は文化祭で私とともに埴輪作りをし、古墳に興味を持つのだ! ぐふふふ」 「く、楠木先生……?」  おっと、心の声が漏れてしまって、生徒を無駄に怖がらせてしまったようだ。  注意しなきゃ。ね、ハニー。  ああ、大事なハニー。私が初めて作った埴輪さん。手のひらに収まってしまう小ささだけど、この体の曲線は何度見ても美しい。  ハニー、見ててね。私は郷土史研究部の顧問として、この町の古墳に興味を持って一緒に研究してくれる生徒を増やすからね。  二年の郷は武将に、一年の久野は忍者に興味を持って、まったく関わってもらえなかった……。  まぁ、部員がいるだけありがたいのだけどね、やっぱり郷土史研究部らしいことをしたいよ。地域の古墳巡りとかね。  さぁ、墨田に古墳への興味を持ってもらいますよ! 「…………墨田は? 新入部員来るはずだけど……?」  勢いよく扉を開けた部室の中には、久野――独り? 「墨田くんなら、部長が武将に会わせるとか言って出て行ったわよ」 「ぶ、ぶしょー……」  す、墨田、お前もか?  ああ、生徒とともに郷土史研究、古墳研究の夢は叶わないのか……ん? 「わぁぁぁ! ハニー!」  私のしたことが、ハニーを床に落としてしまっていたー! ハ、ハニーが割れたぁぁぁ! 「大丈夫よ、くっきー。このボンドをつければ、くっつくわよ」 「あ、ありがとう」 「いいえ。ねぇくっきー、私も一緒に埴輪作りましょうか」 「え?」  まさか、久野が埴輪に興味を持ってくれたのか? と、期待に胸が高鳴ってくる。 「その代わり、今度の英語テストの問題と答え、お・し・え・てっ」  ……。  ああそうだった。期待した私がバカだった。久野はいつもこうやって……。 「そんなことしても、私は落とされないぞ。教師をなめるな!」  教師の威厳を保つかのように久野に注意した私は、久野から逃げるように部室を出た。  久野とのこういう状況は何度もあったが耐えられない。  誘うように胸を近づけてくるのはやめてくれー!  彼女いない歴が年齢の私には刺激が強すぎるんだよー!  ああ、頭がクラクラしてきた……もう今日は帰ろう……。  
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