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部長と武将
(部長が怖い。悪い人ではないのだけど、半端ない腕力で僕を引きずる部長が怖い)
引きずられるがまま城までやって来た僕は、体が疲れて重苦しく感じ、なんだか吐き気がしてきていた。
「ここはこの地域で一番でかい城なんだぜ。運が良ければ武将隊の誰かに会えるんだ」
「へー、ソウナンデスネ」
部長が目を輝かしているが、僕はまったく気持ちが盛り上がらない。むしろ、気持ち悪い。
「墨田、あそこの石垣見ろ」
「石垣?」
「あそこに模様があるだろ? あれは家紋で、どの武将が持ってきた石かわかるんだ。な、武将が生きていたのを感じるだろ?」
「う、うん」
たしかに、戦国時代の痕跡を見ることで、実際に武将がいたことを身近に感じてくる。
ぼーっと眺めていると、部長が「こっちも見て」と、また腕を引っ張ってきた。
部長は城へと続く道を走ると、曲がり角で立ち止まった。
「これもすごいんだぜ」
「なにが?」
曲がり角の石垣を部長は指さしたが、僕にはなにがすごいかわからない。
「この作り方がすごいんだ。ここの道はコの字型になってるだろ? やってきた敵を上から囲んで狙撃するためなんだ。
ほら、あそこから狙われたら、もう俺らはやられるぜ。逃げろー!」
部長はまた僕の腕を取って走りだした。もうやめてほしい。僕の体が悲鳴をあげている。
「あ! 墨田、武将いたぞ!」
「あ、ちょっ……」
武将をみつけた部長は、さらに足を速めて駆けだした。部長の速さに僕の体はついていくのがやっとで、もう……、限界だ。
「うぇぇ……」
「そう、ここの城主、上様だ……って、墨田、大丈夫か?」
「もう、疲れた……」
「これは大変じゃ。あちらの木陰で休むとよい」
「ひぇ? か、かたじけのうございます」
なんと、甲冑を来た武将が僕をひょいと抱き上げてきて、僕は思わず時代劇ぽい言葉を出してしまった。
「は、は、は。お気に召されぬな」
武将は僕を木陰に置くと、爽やかな笑顔で去っていった。
「墨田、大丈夫か?」
「うん……。ちょっと疲れたから休ませてください」
「墨田、ごめん。俺、体強いから、弱い体のやつに気遣うの忘れてしまうことがあって……本当にごめん!」
真面目に謝る部長は、まったく怖い人ではないことがわかる。
(ちゃんと伝えれていれば、怖いと思わずに済んだのだろうか)
「次からは僕が無理なときは言いますね」
「うん。そうしてくれ。俺、バカだからまた気づかずに振り回してしまうかもしれん」
「そういうところがあると、わかっている部長はバカじゃありませんよ。
武将と城についても詳しいし、今日はいい勉強になりました。ありがとうございます」
「そうか、武将の良さはわかったか?」
「はい。さっき武将に助けてもらえたときにラブが芽生えたような気がします!」
「おっし! じゃ、学校戻って甲冑作るぞ!」
部長はもう忘れて走り出した。
「部長、僕の体が!」
「おっと、嬉しくて忘れてしまった。すまない。そうだ、肩車してやる」
「か、肩車?」
部長がほほえんでうなずく。
なんだか部長の優しさをむげにするのも申し訳なく、僕は数年ぶりに肩車をしてもらったのだった。
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