取り合い合戦

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取り合い合戦

 城まで行った翌日。  部室に行くと、部長がダンボール箱を重そうに抱えて持ってきた。 「墨田にもっと武将を知ってもらおうと思ってな、俺の愛読書を持ってきたぜ」  ドンッと置かれたダンボール箱にはぎっしり本が詰めこまれていた。この箱は僕には持ち上げられないだろう。  こんなに重いものを持ってこれる部長に驚くが、それよりも部長がこんなに本を読むことに驚いた。  脳筋そうな部長が本を読むなんて、人は見かけによらないものだ。 「なに、全部読む必要はない。俺が説明してやるぜ」  唖然として部長を眺めていたら、僕が困っていると部長に思われたらしい。  けど、余計なお世話だ。赤髪君のような単純頭たちと一緒にしないでほしい。 「本くらい独りで読めます」 「まぁ、そう言わずに、俺の話を聞いてくれ」  僕が自分で箱から本を取り出すと、部長がそれをひったくった。 「この武将の話は有名だから読まなくてもわかるだろ?」 「はい。天下統一前に家臣に裏切られた人ですよね?」 「そうだ。その御方が育ったのが、昨日のあの城のところなんだ。ま、今あるあの城の形は将軍になったやつが作ったものなんだけどな」 「知ってます」  僕の知ってることを話してどや顔してくる部長にいらっとし、冷めた目で自己主張してやる。 「お、墨田くん、スゴいじゃないか。これなら、俺とともに武将ラブになれるな!」  部長が力強く手を握ってきた。ちょっと痛い。 (そんなちょっと歴史を知ってただけで、武将ラブになるか?)  困惑していると、僕の腕を誰かがつかんだ。  僕をつかんだ手の先には……、楠木先生? 「いや、墨田は、私とともに古墳ラブにさせます! 郷土史研究をしっかりやる部員が必要だ!」 「なに言ってるんだよ、しげる。地元の武将研究だって、ちゃんと郷土史研究になっているだろ?」 「いーや。この地に居続けていない武将じゃなく、この地で亡くなった証しの古墳をみるべきだ!」 「古墳つくっただけで、ここで暮らしてないかもしれないだろ?」 (イテテ……。僕の腕を綱引き扱いしないでくれぇー!) 「なんだとー!」 「力くらべなら負けないぞー!」 「ちょ、ちょ、僕の腕……」  グシャ――!  踏んばろうと足を後ろに引いた楠木先生は、久野が作っていたものを踏みつけた……。   「ご、ごめん! 久野ごめん!」  僕の腕を放して、必死に謝る楠木先生の喉元に、カッターの刃が突きつけられる。  先ほどまで久野がダンボールを成形するのに使っていたものだ。 「お、おい。久野早まるな。退学どころじゃなく、檻の中行きになるぞ。わ、私のせいで、生徒にそんな生き方させたくないぞ」  楠木先生が焦りながらも教師らしいセリフを吐きだす。  そんな楠木先生に久野は笑みを浮かべて、カッターの刃をしまった。 「ふふ。くっきーを殺るわけないじゃない。私の怒りを示しただけよ。もう壊さないで下さいね?」 「は、はい……。す、すまない。申し訳ない」 「じゃあ、からくり屋敷作りを許可してくれたらゆるしてあげる」 「え、それは危険だから――ど、どうぞ作ってください」  再びカッターの刃を突き付けられた楠木先生は、教師としての役割を果たすのを即座に放棄したのである。  
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