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十二月の第一週目の月曜日から四日間で憂鬱なテストを終え、十一月の外部研修による振替休日の金曜日を迎えていた。
珍しく平日の休みとあって、うちの学校の生徒は近場のカラオケやらなんやらを占領したりと楽しそうにしている。
一方の僕は引きこもってゲームを満喫していた。が、楽しいわけではない。
朝食もとらないまま、ゲームに熱中し、頭が火照るようにクラクラなったらキッチンへ行き、ピザを焼いて、コーラと一緒に胃袋に詰め込んだ。
普段、車でも三十分はかかる登校を、心臓破りな近道を使って、二十分間爆走しているだけあり、休日に不健康な食事をしていてもへっちゃら。なんて思ってた矢先、案の定仕事場にいる母から『不健康な食事をしないで、お金置いてあるからちゃんとした食事をとりなさい』とメッセージが来る。
すぅっと通知から消そうとした時、二件のメッセージが入っていたことに気づく。
勿論、そのうちの一つは今さっきの親からのものだったが、もう一つは身に覚えのない。身内であれば無意識に通知ごと消しているが、そうでないらしい。
指紋認証を通過し、アプリを開いてみると、アニメ画像のアイコンをした奴から『残念だったな。でも安心しろ! 楽し……』なんて書いてあり、既読することもなく、閉じてしまった。
だが、あんなメッセージが来てしまっては少しむしゃくしゃした気分から解放されたい気分になり、勢いで財布とスマホ、家の鍵を小さいかばんに詰め込むと、それなりにダサい私服を着て、自転車を飛ばした。行き先は、少し離れた大型ショッピングモール。
爆走して着くと、神速と言わんばかりの速度で菓子屋へと駆け込み、大好物のグミを十袋購入して、店前のイスに座り、軽い荷物を重量感がある音が鳴るほど強く放ると、一袋一気に食べる。
「くっそ、どいつもこいつも、神様仏様まで見放しやがってよ。僕が何をしたっていうんだよ」
やけくそに頬張り、思い切りグジグジ呟いてみる。
スマホのソシャゲのガチャ結果も最悪だ。
ふと、周りを見渡してみると、うちの学校の生徒や大学生やらという若者が楽しそうに歩いていた。ため息をこぼし、逃げるように反対を向く。
「ため息なんかついて、どうしたの?」
「あぁ? いーだろ、別に。迷惑になるものじゃあるまい……」
懐かしい感じの声に、気軽に、適当に答える。だが、そこまで言ったところでようやく違和感を覚えた。
僕はやけくそになりながら一人でここまで来て、一人でグミをやけ食いしていた。
なのに、今、目の前には自然と誰かが座りながら、僕の買ったグミを一緒に食べていた。それも女子。そして、バックについている定期を見る限り、同じ高校の同学年。
「う、うおぉっ。お前、誰だよ。んで、なんでここにいるんだよ」
そんなことを頭で理解した瞬間、驚きのあまり軽く後ろに飛び下がってしまう。
「ひっどいなー。同じ高校で同じ学年で同じクラスの可愛い女子のことがわからないなんて」
その声をはっきりと聞いて、顔を少し見るとようやく彼女について思い出した。
「……な、なんで、篠崎さんが……」
クラスで割と美人なのに、恋愛経験なしという意外な人物だ。ただし、クラスの中心の一席に座る要人でもある。まぁ、そのせいで少し上から目線なところが玉に瑕なんて噂だ。
「な、何の用があるかは知りませんが、か、帰ります」
急な展開に正気になると、即座に荷物を拾い上げ、帰ろうと立ち上がる。
「ちょっ、ちょっと待ってよ。用がなきゃ来ないって」
「じゃ、じゃあ何の用ですか?」
出来る限り脊髄反射で返す。話さないことを意識しておく。そうだ、話してはいけないんだ。
それこそ、こういう人は、同じ空気を吸うというだけでも罪と言われ、思いっきり踏みつけてくる。いや、マジで怖い。
「一人で遊びに来たんだけど、帰りの分のお金がなくなっちゃって、困ってるんだよ。何でもするから、貸してくれない?」
「はい、千円です。別に何もしなくていいし、返さなくてもいいので、僕は帰ります」
「えっ?……」
バッと野口英世が描かれた紙くずを差し出し、再度荷物を持って席を離れようとする。これ以上の面倒はごめんだ。
それに、こう言う人には従っておくしかない。最悪、取り返しがつかなそうになったら警察でも呼べば何とかなるだろう。
「ちょっ、ちょっと待ってよ!」
「これ以上、何も出来ませんって。それに誰かと一緒なんでしょ? だから帰ります」
そこまで言った途端、「あっそ」と声が漏れることなく、口が動いたのを確認すると、とっととその場から立ち去った。
多分、普通の男子でいつもある程度話している仲柄の人ならその言葉に罪悪感を持ち、その場で謝って話が進むのだろうが、生憎僕は疎遠の相手に対して、ご機嫌とりをするようなお人好しではない。
だが、一瞬見えた表情にはどこか変な暗さがあったことだけは忘れることなどなかった。
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