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覚えているのは寒さだけ
秋の風なんて感じることなく、妄想に委ねるままこの季節を迎えていた。何故か懐かしくも切なくなるこの季節。色んな意味でだが。
そして、この季節と言えば、ビックイベントが待ち受けている。
クリスマス。
それは地獄とも言える日である。
両親は運が良く、クリスマスに結婚式を挙げれたこともあり、結婚記念日が重なっているため、丸一日家を空ける。妹はと言えば、誰かしらのクリスマスパーティーに参加し、誰かの家に泊まってくる。
そして、残された僕は相変わらずのクリボッチなんていう汚名を背負っているわけで、毎年悲しく家に引きこもっているわけだ。
中学時代、オタクを丸出しにしてしまい、高校へ行ってもたまたま同じ中学の奴が言い振り回してくれたおかげで、オタクキャラが定着してしまった。
勿論、オタクに対しての世間の風当たりは非情とも言える程で、青春など謳歌させてくれやしない。なんていう現実から今年こそ脱するために友達作りの努力をしてみたのだが……。
「よーし、この季節がやって来たぞ。皆の者、準備はいいか?」
「勿論だとも」
「では、アニ研の名にかけて今年こそ当たれ」
結局、行き着く先はここだった。
わざわざ大袈裟なセリフをかまし、キーボードが壊れそうな勢いでエンターキーを押す。
「来いっ」
ここにいる誰もが目を瞑り、祈る中、緊張のロードタイムが始まる。
ピリつく空気に、僕も手を合わせ、ひたすらの祈りを捧げた。
バーが少しずつ進むたび、胸の鼓動が伝わるような感情に見舞われる中、百パーセントを示した途端、一瞬で画面が塗りたくられ、文字が表示されると、音声が流れ始める。
『おめでとうございます。クリスマス特別ライブに当選しました。以下の方法のうち、いずれかで料金をお支払いして、チケットを購入して下さい。クリスマスでお会いしましょう』
盛大なサウンドと共に、流れたキャラの音声が興奮を促した。
「当たりましたね。部長」
「あぁ、良かったな……って、おい待て、全部が当たったわけじゃないぞ」
「えっ?」
そんな歓喜は部長の声で、張り詰めた緊張に逆戻りする。
「えっと……一〇七八二、一〇七八四が不当選だって」
「誰の番号?」
スクロールした場面に、キャラが泣いている画像と共に書いてあったのは『以下の番号は客席の数の関係で、不当選となってしまいました』だった。二人連れていけないという気まずさが部室に流れ込む中、名簿を取ってきた副部長に名前が挙げられる。
「雪道と、浅山だ」
自分の苗字を呼ばれ、心にあった嫌な予感は見事的中。姿を潜めていた希望はいとも容易く壊されてしまった。だが、慰めの言葉はこちらには回って来ず、二年生の浅山先輩へとかけられる。
「残念だ。部で最後のクリスマスライブだったのに」
「去年もだったんですよね。心中お察しします」
そんな中、本人は平気そうな笑顔を見せる。
「別に気にすんなって。部活では行けないが、まだライブ自体にはいけないわけじゃない」
すると、先輩はポケットからスマホを取り出し、そこに映されていた画像をみんなで見る。
「えっと……。『当選おめでとうございます』って、どういうことだ!」
「こんなこともあろうかと、うちの弟の名前を借り、応募していたんだよ」
「えぇ、先輩。俺らの心配を返してください」
まぁ、そうなるだろうと思っていた。途端に向けられる視線が辛い。
「あっ、雪道……。残念だな。だが、お前には来年があるんだ」
「……はい」
そういった気遣いをしてくれるのは嬉しいが、一人省かれるような感じになると、自分だけでなく、周りまで気まずくなる。
さっと、喜びのムードを邪魔しないように荷物をまとめ「すいません、ちょっと今日は親が仕事で遅いそうなので、早めに帰らせていただきます」と残して、部室から立ち去った。
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