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次に目を覚ましたのは、真っ白な部屋のベットの上だった。
「…………ん」
––––生きてる。
上手く動かない身体に少しもどかしさを覚えながらも、手の感覚を確かめるように握り開きを繰り返す。
窓からの溢れ日がやけに眩しい。
思い返せば、昨日の事が一夜の夢のようだ。夢だったのなら悪夢も良いところだが、現実だ。それに、ふと思い出してみると、急に恥ずかしくなる。
なんであんな事したんだろう。そんな事は考えるまでもないのに、今は考えてしまう。結局それも、言い訳が欲しいだけ。
コンコン。
ふと、ドアの開く音が聞こえた。そして、奥から現れた人影と目が合う。
「あっ」
「あっ」
彼女–––– 紗倉 柚月だった。
「紗倉さん? ……って」
その奥からもう一人現れる。
「母、さん」
「淳」
僕の母親がいたのだ。ただ、母は柚月がいる前だと言うことを忘れたかのように、涙目で飛びついて来る。ビンタ付きだが。
ワンワン泣いているのに気を使ったのか、彼女は僕が起きたことを伝えに行ってくれたようで、彼女が戻って来たしばらく後、直ぐに医者と看護師がヘルスチェックと点滴の交換へとやって来た。
そして、これからの生活にも支障が出ることはないと伝えた医者は母を呼び、看護師もそれに続いて機具の大体と共に退室していく。
残ったのは、僕と柚月だけだった。
とは言え、流石にあった出来事をチャラにできるほど甘い世の中ではないし、交わした会話をそう易々と忘れられる人間でもない為に、二人の間に流れる空気は硬い。
それでも、彼女は口を開く。
「……ねぇ」
「……何?」
「その……ちゃんと守ってね……」
その一言に、今度こそ鼓動は早くなる。
こんな時に心電図撮ってなくて良かったと思う。絶対に警報が鳴るレベルで上がっているだろう。
「……も、勿論」
顔を赤ながらも、答えを口に出すと、彼女は顔を俯かせ、ゆっくりと立ち上がり、ちょっと歩いて、窓を開けた。
「……あ、暑いね」
「う、うん」
まぁ、彼女なりの照れ隠しなのだろう。
と、心地良い春風がカーテンを揺らし、春の香りを運んできてくれた。
それに、運が良いらしく、雑音がさしてして聴こえて来ない。どうやら、こっち側は受付のある入り口とは反対に位置しているらしい。
「……ねぇ」
そう言いながら、彼女は僕の方へと向く。
「好きだよ」
春の陽光に照らされ、髪を靡かせながら、そう言った彼女の顔には笑顔が浮かべられていた。
きっと、これからも苦しいことは続いていく。まだ、解決してない問題も山積みだし、今回のことできっと色んな人に迷惑をかけているはず。
でも、もう僕は決めたんだ。
「僕も、好きだよ」
どんなに辛い事があろうとも、彼女の為に生きると。そう誓ったから。
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