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繰り返される自分の名前。年下の人間に本名で呼び捨てられるなど考えられなかったし、今でも芳之以外には許していない。
だが、16も年下の芳之からこう呼ばれることにはすっかり慣れてしまった。今では当たり前のように感じる。
でも、彼は恋人ではない。
それを思うと、少しばかりの罪悪感に襲われる。彼はずっと、サキを恋人だと信じているから。
恋人でなければ何なのか、はわからない。セックスフレンドというには余りにも近過ぎるし、恋人と言うにはあと一つ、何かが足りない。
「ねぇ、春臣。…すごい気持ちいい」
とろけるような甘い声。それはいつでも、サキの心にしみ渡る。
「俺もだ」
「僕の中、気持ちいい?」
「ああ」
だから、彼とだけ体を重ねる日々が続いているのだ。
「ふふっ…良かった」
彼は少し笑う。音楽に対しては絶対的な自信があるくせに、セックスに対しては時々自信のなさを覗かせる。初めのうちはそれがわからなかった。とても積極的で能動的だったから。だが、それが自信のなさの裏返しだと気付くまでは、いくらもかからなかった。
こうして離れたがらないのも、それだ。
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