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 サキのデスクの横に空いている事務椅子を引きずって来て、さっきから喋り続けている芳之は、少し邪魔だ。  朝から連れてくるのではなかった、と後悔と反省をしながら事務作業を片付ける。 「明日と東京、お前のCDも物販するの覚えてるな? ちゃんと告知しろよ」  芳之の念願だった個人名義のトリビュートアルバムは、一ヶ月前に発売されたばかりだ。権利関係をクリアするのには骨が折れたが、苦労の甲斐あって素晴らしい出来上がりになった。売上の方もまずまずだ。 「してるよ? ツイッターとブログとサイトで宣伝してる」 「物販にあるのも書いておけ」 「サキさんの歌がめちゃめちゃいいよーって書いとくね」 「俺はゲストプレイヤーだからいいんだ。売り物はお前だ」 「そうなの? 春臣」 「サキさん」  人前で本名を呼ぶなと常々言いつけているのに、芳之はすぐ間違える。ここにはスタッフもいるのだから、言い直させる。 「サキさん、が歌ってるからいいアルバムなのになぁ」 「俺は一曲しか歌ってないだろう」 「これがないと、このアルバム完成じゃないもん」
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