夏送り

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 八月の最後の週末、友人と市民祭りに出かけた。メインは地元企業がスポンサーになっている花火で、毎年たくさんの人出がある。  会場まで出かけて見る花火は久しぶりで、浴衣だけは気合いたっぷり早々に買ってある。着付けを習ったこともないのに、インターネットで調べて、見よう見まねで着てみた。  私は紺の浴衣に赤い牡丹の花模様の帯を締めて、友人は赤い浴衣を着て、白地に黒で模様の入ったへこ帯を蝶結びにして。電車でもみくちゃにされてから、祭りの会場まで人の波について歩く。  最初の一発には、集った人たちと一緒に歓声を上げた。  眩いくらいに夜空を照らしている。スポンサーの名前がアナウンスされた後には、大輪の花火が上がる。視界いっぱいの光の粒に、子供の頃、父親と手をつないで見た花火を思い出した。  大きな花火は、星が降ってくるようだと思った。あれは幼かったから余計に大きく感じられたんだろうと思っていたけれど、違った。  今見ても、花火は視界いっぱいに広がって、星が落ちてくるようだった。  最後に特大の花火が上がり、終了のアナウンスが流れた。  人が引いてから帰ろうと思い、屋台で食べ物を買いあさっていると、屋台の電気も消えた。  唐突に、祭りの華やかな雰囲気がかき消されてしまう。 「夏って、一年の間のお祭りの期間みたいだよね。終わるの早い」 「海とか、行ける期間が短いから焦るしね」 「何にせよ、これで夏を見送れるね。ようこそ秋!」  大げさな私の言葉に、友人が笑う。  まばらになった人を眺めながら焼き鳥を食べていると、隣で友人が夜空に向かって手を合わせて俯いていた。  そういえば、花火を見ている間も時々そうしていた。喧噪も去り、明かりも消えた中で見ると、なんだかひどく寂しげに見える。 「どうしたの」  問いかけると、彼女は手を合わせたまま、顔をあげて答えた。 「花火って、魂送りなんだって」 「そうなんだ。初めて聞いたよ」 「みんなで霊を見送るためにするんだって、おばあちゃんが言ってた」  友人はおばあちゃん子だったらしく、いつもおばあちゃんの知恵袋を披露してくれる。  数年前に亡くなって、お葬式に出てしばらくはとても落ち込んでいたのを覚えている。 「お盆に帰ってきた霊も、やっぱり此岸が楽しくて、此岸に残した人と別れるのがつらくて、帰りそびれてしまうことがあるんだって。だからこっちですよ、って送り出してあげるんだって。みんなで見送るんだよ」 「じゃあ見える人には、花火にたくさん人魂みたいなのが集まってるのが見えるのかな」  それはとても綺麗そうだけど、とても悲しい光景に違いないと思った。 「そうかもしれないね。ときどき、人魂みたいな花火があるけど、実は花火じゃないのかもしれないね」 「えー怖いからやめてよ」 「おばあちゃんのこともちゃんと見送ってねって言ってたから、無事に彼岸に辿りつけるように見送るんだ」  そうだね、と応える声がさすがにしんみりしてしまった。  おばあちゃん子の友人は信心深くて、とても優しい。彼女はまた夜空を見上げて、つぶやいた。 「昨日まで一緒にいたから、急に一人になると寂しいけど、仕方ないよね」                           終わり
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