桃と俺

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唇を離して、ぎゅっと彼女を抱き締めた。 桃のような、濃密だけどさっぱりとした甘い匂いが彼女から漂う。 「今日も可愛いね。愛してるよ」 彼女の耳元で、囁いた。 「うん、私も、」 「あーっ!またしてる!」 百華の叫び声が聞こえて、俺と彼女はビクッと肩を跳ね上げると、慌てて互いの身体を離した。 百華が、こちらを指差す。 「もう、すぐパパとママ、ぎゅってしてる。お店行く時間だよ」 もう多少の文字や数字の読み書きができる、我が娘ながら才女の百華は、時計を指差した。 イチャついてお店に行く時間を忘れていた、大ボケ父親の俺は年長の娘に教えられて面目なかった。 オーナーとして遅刻するなんて、オーナー以前に社会人としての自覚が足りない。 「あ、そうだね!教えてくれてありがと、もも!いい子だな」 俺は百華の頭を撫でて、大急ぎで出掛ける準備をする。 「じゃあ、行ってきます」 玄関先で見送ってくれる妻と娘に、言った。 「行ってらっしゃい。あともう少ししたらすぐに会えるけどね」 百華の幼稚園が休みの日は、百華を連れて桃ちゃんがお店の手伝いに来てくれた。(桃ちゃんは要らないと言うけれど、もちろん給料は払って) 「そうだね。でも、家のことで忙しかったら無理して来なくていいからね」 普段から家事や育児をほぼ担ってくれている桃ちゃんに、少しでも身体を休めて欲しかった。
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