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彼女は、考える素ぶりをして微笑む。
「ありがと。無理はしないから心配しないで。それに、行かないとももが駄々こねるから。“絶対お店に行く”って」
俺は、苦笑いした。
百華は、休みの日は絶対に俺の店に行くと決めていて、変えられない日課となっていた。
怪我や病気をしていない元気の時は、嵐でも吹雪でも休みの日はお店に行きたいと駄々をこねるほどだった。
百華はお店にいるときはお利口で、とても大人しくしている。
そして、お店に来る常連さんとお話しするのが好きなのもあるけれど、休みの日にこだわって行きたがるのはそれとは別にある魂胆があるのだ。
「そうだね。じゃあ、もも。パパは先に行くけど、ママを困らせちゃダメだぞ」
「わかった」
百華が頷くと、桃ちゃんが綺麗に二つに結った髪が揺れた。
「ん。じゃあ、後でね。……桃ちゃん」
俺は、さっと彼女の頬にキスをした。
「っ、颯斗!」
桃ちゃんは、百華の前でしないと言った側からと、俺を鋭い目で見る。
「ははっ、ごめんごめん。行ってきます」
「パパ、気をつけてね」
顔を赤らめる桃ちゃんと、手を精一杯振る百華に見送られて、マンションのエレベーターに乗った。
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