04

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「……お前がしたのは、呪いではなく祝福だ。俺は他者からの呪いを打ち消すことも、返すこともできるが、祝福を消すことはできない。第一、契約をしていたのなら、命令されれば従う他ない。特に、消滅しかけるくらい弱っていたのなら」 「え? しゅくふく? ……しょうめつ??」  ぽかんとしながら聞き返すと、ラルヴァが苦笑いしながら頷き返した。夜は目がぎらっとしていて怖いと思っていたのに、陽の光の下だと思ったよりも怖くないかもしれない。それより、しゅくふくとは何だろう。 「人を呪うことも知らないインキュバスとは」  面白いな、と笑ったラルヴァに抱きかかえられる。いったいぜんたい、俺はどうなってしまうのだろうか。 *** 「ラルヴァ~! そのこが、リィズ?」    人間の食事とやらを頂いた俺は、この世にこれほど美味しいものがあったのかと驚愕した。ラルヴァの精もとても美味しかったけれど、それとは種類が違うというか。勝手に涙で視界が潤みながらも完食すると、次に俺はラルヴァの主のところに連れて行かれた。 「は……はじめまして」  あれ。王さま、実はお小さい方なのですか。駆け寄ってきた人間の子どもに視線を合わせようと膝をつくと、ピカピカの金髪に綺麗な服を着たお子さまは俺の頭をなでなでしてきた。 「おやあ。ラルヴァが猫を拾ったようだと侍従たちが話していたが……随分美しい猫だねえ」 「飼ってもいいだろう? あんたの病を祝福でどうにかしたのが、こいつだ」  あ、そちらの方が王さまでしたか。好々爺然としているけれど、格好からして王さまだ。それにしても、彼らの会話が恐ろしい。もしかして、俺は今何かにはめられようとしているのではないだろうか。うつくしい、というのは綺麗なものを形容するもののはずなのに。 「おお、君が! 医師からも、手の施しようがないと言われていたから、もうだめだと自分でも諦めかけていたんだよ。そうかそうか……ありがとう、君のお蔭で生きながらえることができたよ。この子らが無事成人するまでは、何としても生きなければならないからねえ」 「リィズ、かみのけまっくろ。きれいね~」  にこにこにこにこ。なんだ、この世界は。こんな優しい場所に、俺が混じってもいいのだろうか。王さまはこの国で一番偉い人だし、その人の家族も偉いはず。 「ららら、ラルヴァさん?! あなた、何者なのですか!」 「ラルヴァはねえ、まもってくれるんだよ! とーってもねえ、つよいの!」  ピカピカのお子さまが、思わず立ち上がった俺の手を握りしめながらそう笑顔で教えてくれる。 (国で一番えらい人と契約して、守っているってこと? 呪いとかも返せるとか、言ってなかったっけ……?)  そういうすごいのがいるって、聞いたことがあるような、ないような。 「リィズも、これからはいっしょだね! ぼくのなまえは、ユーリっていうの。よろしくね」 「よろしく、おねがいします……?」  なんだろう、本当に、なんなの。訳が分からなくなり、俺は黒猫の姿になった。主に役立たずと罵られるだけのインキュバスが、こんなところにいては申し訳ない! と、脱兎のごとく駆けだそうとしたところで、あっさりとラルヴァに捕獲されてしまった。「わあ、ねこさんだあ!」とピカピカのユーリさんが喜んでいる。 「あー! あー!」  扉が開き、更にお小さい方も現れた。更にお小さい方は、小さい割に大きな目をキラキラとさせて俺の尻尾を掴もうとする。キラキラなこちらのお小さい方はフォルナさんだと、ユーリさんが紹介してくれた。わざと尻尾を揺らめかせてみると、ユーリさんも声を上げながら喜んで寄ってくる。  彼らは王孫だとラルヴァが教えてくれた。お孫さんたちの両親は不慮の事故で亡くなっているから、王さまが後ろ盾となって、彼らが成長するまで見守りたいのだとか。 「……というわけで、お前は祝福係だ。彼らの遊び相手もよろしく頼む」 「……俺に、そんな素敵なお仕事……良いのでしょうか?」  しっかり頼むぞ、と含み笑いしているラルヴァに言われる。「三食昼寝付き、夜もあり」と囁かれて耳が勝手にぴくりと動く。 「ふつつか者ですが……よろしくおねがいします」  最後の言葉で完全に堕ちた俺が、ぺこりと黒猫のまま彼らに頭を下げるのと、お小さいフォルナさんの指が俺の尻尾を掴むのは同時だった。 -祝福のマギステルスは横取りされた- Fin. (後日談に続きます)
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