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番外編:ご褒美とご馳走
「むむ」
お城に来て、ラルヴァからたっぷりと力を分けてもらっているせいか、自分の力が強くなった気がしていた。
今日はお城でフォルナさんのお誕生日パーティーが行われている。パーティーは危険だと、ラルヴァが言う。ごちそうは沢山だけれど、厄介な者が入りやすいらしい。
ふと身震いをしたくなる寒気を覚えた。
――何かが、この城に入り込んだ――ような、気がする。
ラルヴァを見てみたけれど、王さまやユーリさんたちのところぴったりといて、気づいていないのか気にしていないのかは分からない。どちらにしろ、ラルヴァが王さまから離れることはしないだろう。
(勇気を出してみる……)
黒猫の姿で嫌な気配を探っていくと、やがてフォルナさんのお部屋にたどり着いた。
今日の主役であるフォルナさんのお部屋は、贈られたプレゼントがたくさん積まれていて……静かだ。気のせいかな、と首を傾げたところで、目の前に闇が現れた。
それは、贈り物にくっついてきたらしい。大きなネズミの姿をした闇は、俺を見るとあからさまに小馬鹿にした表情をした。
(ええと……祝福をする!)
俺の魔力は残念仕様だけれど、魔物は祝福を嫌うらしい。ラルヴァに教えられた通り、祝福の言葉を唱えていると、ユーリさんが俺を呼ぶ声が聞こえた。
『いけません! 扉を開いては!!』
言葉を急いで唱え終えると、相手が真っ白になって少しずつ消えていく。苦しんでいるのか、暴れるそいつの爪が俺の足を掠めたけれど、なんとかユーリさんを守ることには成功した。
「リィズ、どうしたの?」
ひょこりとユーリさんが顔を出す。
『な……っ、何でもないですよ! フォルナさんのおもちゃを見たら、ユーリさんがうらやましくならないかなあ~と』
「ぼく、フォルナのものをほしがったりなんかしないよ!」
むう、とユーリさんが頬を膨らませる。侍女さんが慌てて追いかけてきて、ユーリさんを連れて行ってくれた。
『いてて……』
一人だから。
泣き言を呟いても許されるかな。猫のままでしゃがみ込むと、俺の後ろ足にはざっくりとした傷ができていた。半泣きで傷を舐めていると、また扉が開く音がする。
「リィズ」
現れたのは、ラルヴァだった。
「あんな小物に、傷をつけられているとは」
ラルヴァの硬い声。抱え上げられると、傷口にラルヴァが口付けてきて、一気に痛みが消えた。
「……勝手に傷を作るな。せめて、痛い時は痛いと言いに来い」
『あ、あの……?』
戸惑っていると、「無事で良かった」という声と共に口付けられて――俺は、くすぐったい気持ちになる。
今日も、居場所を守ることができたことに満足していると、「得意げな顔をしているな」とラルヴァに笑われてしまった。床に下ろされたので猫から普段の姿に戻る。一気にラルヴァの顔が近くなったのが嬉しくて、勝手に顔がニコニコしてしまった。
「あの……俺も、少しはラルヴァさんのお役に立てましたか?」
「些細な小物の気配に気づけたのは確かに成長している。……だが、お前は危ないことをしなくていい」
ええっ、何でですか?? と問いかけても、ラルヴァは小さく笑って答えてはくれなかった。
***
「あー! リィズ、やっともどってきた!」
ラルヴァと一緒に広間にこっそりと戻り、バルコニーへと出たところで、ユーリさんが駆け付けてきた。
「リィズのすきそうなごはん、いっぱいつくってもらったのに、なかなかもどらないんだもの」
「えっ、俺の好きそうな……? そんな、おそれ多い……」
ユーリさんが、わざわざ料理人の方たちにリクエストをしてくれたらしい。今日はフォルナさんのお誕生日だから、俺は関係ないはずなのに。
「なんで? だって、リィズはだいじなきょうだいだもの。ぼくもね、すきなものいっぱい……たのんじゃった」
フォルナの誕生日なんだけどね、とユーリさんが照れ笑いする。
「あ、ちなみにぼくがあにうえだからね? リィズ、ねこだとぼくよりかるいから」
嬉し涙が滂沱と溢れ出してくる。人目が少ないのをいいことにうっかり黒猫姿になってしまうと、ユーリさんが手を伸ばしてきた――のに、なぜか俺はラルヴァに抱え上げられてしまった。
「そろそろ、中に戻ろうか」
「……ぼくがリィズをだっこしたいのに」
残念だが、とラルヴァがユーリさんに笑いながら返している。
「今夜は、俺が。……放したくないんだ」
ラルヴァが小さく呟いたのと、「ユーリ様、そろそろお部屋に戻りましょう!」とユーリさんが侍女さんに声をかけられたのが被る。「ラルヴァ、なんていったの?」とユーリさんは小首を傾げたけれど、そのまま侍女さんたちに連れて行かれた。
おやすみなさーい、とラルヴァの腕の中で、猫のまま前足を振って見送る。少ししてから、歩き出したラルヴァに「ご褒美とご馳走、どちらが良い?」と尋ねられた。
『そんな、俺にはどちらももったいないです』
「じゃあ両方だな」
という、よく分からない返事がきたのだった。
Fin.
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