6人が本棚に入れています
本棚に追加
おどろおどろしい外観。
動く化け物の人形。
客を呼び込む声。
店の中から聞こえる、甲高い悲鳴。
毎年お祭りの時に開かれる、大きなお化け屋敷だ。
「お前1人で行け。」
「はぁ?あんたも一緒に入るのよ。」
「ふざけんな。こんなガキ臭いモン、入ってられっか。お前が入ってる間に、クレープ買っといてやるよ。」
「嫌よ。私はメニュー見て選びたいの。ほら、早く。じゃないとお化け屋敷怖くて、入らなかったって、皆に言ってやるから。お化け屋敷の音を聞いただけで、ビビってたともね。」
「俺がいつビビったってんだ。そんなに言うなら、ついて行ってやるよ。お前が腰を抜かす姿が、目に浮かぶがな。」
むしろ、アキが引きずるように、紗知とお化け屋敷の中に入って行く。
素人の作ったお化け屋敷だ。よく見れば、飾りのろくろ首や化け猫も、お粗末なのが丸わかりだ。
こんなもので、怖がる阿呆等存在するものか。
そう1人勝手に強きになる。
男の悲鳴が、お化け屋敷から木霊したのは、わずか1分後の事である。
★
お化け屋敷を出た後、2人は一言も会話を交わさなかった。
ぶすりと顔をしかめるアキ。それに肩を落とす紗知。
変な事を言えば、ガチギレしてくる時の、拗ねまくった表情である。短い付き合いだが、よく知っていた。
自分から謝るのは癪だった。年上の男の為に、何故未成年で子供の自分が、気を遣ってやらなければならないのか。
しかし、精神年齢では、自分の方が上だと思っていた。
それに、怒ってはいても、約束のクレープ屋に並んでくれるあたり、彼にしてはよくやった方だと誉めてやるしかない。
「…ごめん。」
「…それは、何に対しての謝罪だ?」
未だに足震えが止まらないアキに、謝罪内容を述べる。
最初のコメントを投稿しよう!