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あと5分……5分だけでいいから一緒にいたいと思った。
でも、あなたはさっきから自分の腕時計ばかり見ている。ため息をつきながら、まだかまだかと5分経つのを待っている。
たった5分なのに。私といることが、そんなに苦しいの?
私にとって短い大事な5分間は、あなたにとって長い苦痛な5分間。
同じ空間にいるのに、同じように時間を共有できない。
もう、本に夢中になっていた私に優しく微笑んでくれたあなたはいない。
私は最後の1ページをめくった。
「さっきの荷物のことだけど」
「え?」
「私の物あったら、やっぱり捨ててくれないかな?」
「え?捨てるの?」
「うん、もういらない物だと思うから。連絡もしなくていいから」
「分かった」
初めて彼の表情が緩んだ。
――私はついに最後まで読み終えた。
壁時計に目をやる。そろそろ時間だ。
これ以上あなたを引き留めても、一緒に未来には行けないのだから……
――5分経ったらちゃんと、さよならしよう。
完
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