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楽しい時間を一緒に過ごしていたあの頃は、時間が経つのが早すぎると嘆いていたのに。
今は二人でいる時間がとても苦しい。
またちらりと腕の時計を見る。秒針の動きがとても遅く感じる。
俺は静かに息を吐いた。
こうなった原因は俺にある……他に好きな人ができた。
彼女のことが嫌になったわけではなく、彼女以上に好きな人ができてしまった。
抑えようとすればするほど、その気持ちはどうしようもなく止められなかった。
もうこのままではいけないと、意を決して別れを切り出したとき、彼女に泣かれ、責められた。「もうやり直すことはできないの?」と何度も聞かれた。
俺はただ、ごめん、と言うことしかできなかった。ただひたすら、謝り続けた。
自分の勝手さに自分でも呆れる。
でも、自分の気持ちに嘘をついてこのまま彼女と一緒にいることはできない。
他の人を想いながら、彼女を抱くことなんてできない。
「ごめん……」
何を言っても謝ることしかしない俺に諦めがついたのか、彼女はついに別れを了承してくれた。
今日は俺の家の鍵を返してもらうために、ここに来た。
鍵を受け取ったら、二人のすべてが終わるはずだった。
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