2・いまの席、やだなあ

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「そういやさあ。綾子ってミヤサコって呼ばないよね。北島って言うよね、ちゃんと」 「え、ああ」  言えないんだもん。 「……綾子さあ、クラスのみんなとぜんぜん普通に喋ってるけど、ミヤサコとはあんまし喋んなくない? っていうか、あたしミヤサコと綾子が喋ってんの、見たことないかも」  一瞬だけまわりの音が消えたように感じたのは、あたしだけだろうか。  いま、バスケットボールを持っているのは誰なんだろう。ボールが下に叩きつけられ、震動する床。 「ねえ。田宮さん」  背後からあまりなじみのない女子の声。同時に右肩をちょんちょんとつつかれる。  振り返ると、となりのクラスの女子が斜めうしろに座っていた。あたしと似たようなショートヘアの女子が。  斎藤さんという人だ確か。下の名前はたぶんリョウコ。中学校も同じだったけれど、クラスが一緒になったこともなければ、話をしたこともほとんどない。  その斎藤さんの隣に、目の大きな、色の白い女の子が座っていた。  華奢。肩までのびた髪は、染めてなさそうなのにきれいな栗色。触れるととっても滑らかそうな。  この子はフルネームで知ってる。松代奈々子(まつしろななこ)さん。  うちのクラスの男子連中に「可愛い可愛い」と騒がれている子だ。  どこの誰が人気がある、というのはあたしにはよくわからない。けれど、松代奈々子さんに関してはきっぱり言える。  ああこの子、もてるんだろうなあ。と。 「田宮さんにちょっと聞きたいことあるんだけど。いい?」  あたしに話しながら斎藤さんがチカコに目で伺いをたてていた。  このひとのこと貸してくれない?  とでもいうように。  
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