49人が本棚に入れています
本棚に追加
「そういやさあ。綾子ってミヤサコって呼ばないよね。北島って言うよね、ちゃんと」
「え、ああ」
言えないんだもん。
「……綾子さあ、クラスのみんなとぜんぜん普通に喋ってるけど、ミヤサコとはあんまし喋んなくない? っていうか、あたしミヤサコと綾子が喋ってんの、見たことないかも」
一瞬だけまわりの音が消えたように感じたのは、あたしだけだろうか。
いま、バスケットボールを持っているのは誰なんだろう。ボールが下に叩きつけられ、震動する床。
「ねえ。田宮さん」
背後からあまりなじみのない女子の声。同時に右肩をちょんちょんとつつかれる。
振り返ると、となりのクラスの女子が斜めうしろに座っていた。あたしと似たようなショートヘアの女子が。
斎藤さんという人だ確か。下の名前はたぶんリョウコ。中学校も同じだったけれど、クラスが一緒になったこともなければ、話をしたこともほとんどない。
その斎藤さんの隣に、目の大きな、色の白い女の子が座っていた。
華奢。肩までのびた髪は、染めてなさそうなのにきれいな栗色。触れるととっても滑らかそうな。
この子はフルネームで知ってる。松代奈々子さん。
うちのクラスの男子連中に「可愛い可愛い」と騒がれている子だ。
どこの誰が人気がある、というのはあたしにはよくわからない。けれど、松代奈々子さんに関してはきっぱり言える。
ああこの子、もてるんだろうなあ。と。
「田宮さんにちょっと聞きたいことあるんだけど。いい?」
あたしに話しながら斎藤さんがチカコに目で伺いをたてていた。
このひとのこと貸してくれない?
とでもいうように。
最初のコメントを投稿しよう!