1・三年二組四月

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 おはようを言うこともなく教室に入り、まわりを見わたしてみて「あれ?」と思う。  感じが違う。  二年の三学期から定位置だったあたしの席に、男子が座っている。教壇すぐの席。つまり一番まえの席だ。  けほけほと咳をしながら、もう一度まわりを見わたしてみる。  オハヨウ! と手をふりつつ近づいてきたのは仲のいいチカコだ。  長い髪が胸元にたれて揺れている。白のブラウスに紺色のカーディガン。チカコのカーディガンには結構、毛玉ができている。ひとのことは言えないけれど。 「綾子熱けっこう出たんだってぇ? 三年にあがったばっかなのに、災難じゃん。もう大丈夫?」 「あー、熱はさがったんだけど。まだ咳がでちゃって」  それより。 「ねえ、あたし休んでる間に席がえ、した?」 「見ればわかるじゃん」  あっけらかんとチカコ。 「えー。なんで人が休んでる時に席がえなんかすんのさあ。誰よ、言い出しっぺはあ」 「いや近藤が。一応変えるかあ?って」  近藤。去年と同じ担任だ。 「席がえするなら、新学期はじまったその日にやれよって感じ! なあんかうちの担任って中途ハンパ」  だけど。  学校を休んだ時にクラスの役員を決めていて、勝手にやっかいな委員にさせられるのに比べたら、ましか。 「でも綾子、いい席だよ」
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