1・三年二組四月

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 窓際の後ろから二番目がミヤサコ、いや、北島英人(ひでと)の席。  その隣。それが、くじ引きで決まったあたしの新しい席らしい。  北島の席を囲んでいる男子たちの背中。三年目にもなると学ランもさすがに痛んでくる。黒い制服の生地が、角度によっててかてかと光って見えていた。  らくだ色をした机。あたしの新しい席には端っこに大きな穴があいていた。  年季のはいった穴だった。以前ここに座っていた三年生が彫ったのだろう。こんなことをするのは男子に違いない。まったくガキくさい。  ―――テストの時こういう穴って厄介なんだよな。解答用紙にシャーペンがぶすっと穴に入って刺さっちゃったりして。  そんなことを悠長に考えている場合じゃない。  どさり、カバンを机に置くと、背中を向けていた男子たちが振り返り「おお」と声をあげてきた。 「田宮じゃん」 「なんだ。お前北島のとなりなんだ」 「風邪ひいたんだって?」 「バカでも風邪ひくんだな」  次々とあがる声。笑い声。  うるさいよ。バカはお前らだ。  ややむかついて連中をにらみつけてやると、いくつかの学ランに囲まれていた北島の顔が見えた。  目が合った。
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