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とたん、北島の顔から色がなくなる。男子たちとつい先ほどまで、破顔させて大声を出していたのに。
「――そんでさあ」
何事もなかったかのように北島がまわりの連中に話を続ける。
少しかすれた感じの、大きな声。耳に残る声。
その声に続いてわき起こる連中の笑い声。
あたしを見た時のあの、北島のつめたい目。
みじめな気持ちがまた、生まれてきてしまう。
にぎやかにやっている左の席のことは、あまり意識しないことにしよう。そう思いながらカバンをひらき、筆入れや教科書を机の中に入れていく。
その時。
手がすべって、現代文の教科書を床に落としてしまった。
椅子に座ったまま屈んで教科書を取る。
屈みこんだらまた、喉がかゆくなってしまった。ケホケホと咳き込んでしまう。
クリーム色の床。すぐそこにある、いくつもの足。二重線の入ったくたびれた校内用シューズ。
左上から自然に耳に入ってくる北島の楽しそうな声。どんな顔で笑っているのか、容易に想像できてしまう声。
だめ。
意識しないようにしても、だめ。
ものの十秒もしないうちにあたしの決意はけつまずいてしまった。あっけない。
よりにもよって、どうしてこの席に。
現代文の教科書を机にしまいこみ、誰も気づいていないだろう溜息をこぼし、両肘をつけて頬杖する。
黒板はチョークの粉を感じられない、まっさらな状態だった。授業がはじまる前はこんなにきれいなのだ。
担任の近藤が教室に入ってくるのに、まだ五分もある。
受験生だというのに、まったく危機感のない笑顔だらけの教室。参考書を開いている人なんか見当たらない。
席を立ってチカコのところにでも行こう。そうでもしなければ、ごわごわになった気持ちがほぐれない。
でも。
たとえチカコのところに行っても。気持ちは、ほぐれないかもしれない。
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